近年の沖縄の葬儀は、家族葬などの小さい規模が選ばれるようになりましたよね。沖縄の葬儀と言えば、100人以上の弔問客が集まる大きな葬儀が定番でしたが、新型コロナ到来がより拍車を掛けました。
沖縄で小さな葬儀が求められる背景には、より身近な人々で心を重視したお見送りがしたい、との希望があります。
そのため沖縄では自宅を会場にした葬儀が多いものの、一方で戸建てのようなプライベート空間を演出した沖縄の葬儀会場も見受けるようになりました。
そのなかで故人の霊魂を供養しようと、昔から沖縄に残る葬儀のしきたりを見直し、取り入れたいとする希望が増えています。
今回は、沖縄の自宅で行う葬儀(家族葬)の際、ご遺体の移送と自宅への迎え入れで行う沖縄葬儀のしきたり、「ヌジファー(抜魂)」についてお伝えしますので、どうぞ参考にしてください。
沖縄の葬儀儀礼「ヌジファー」ってなに?
沖縄独自の葬儀儀礼で、故人が最期の時を迎えた部屋からご遺体を移送する時に行います。
病院で最期を迎えると、病院と契約をしている葬儀社スタッフがご臨終時に行う事柄はひと通り進めてくれますが、ヌジファーは昔ながらの沖縄の葬儀儀礼なので、ほぼ行ってはくれません。
※ 病院契約の葬儀スタッフがご臨終時に行う事柄は、主に湯灌(アミチュージ)やお着換え(グソースガイ)です。そこから病院の霊安室へと運ばれます。
【 沖縄の葬儀儀礼。ヌジファーとは 】
● 「ヌジファー」は沖縄の言葉で、漢字で書くと「抜魂」です。名前の通り、ご遺体から魂を抜く沖縄の葬儀儀礼となります。
→ 霊魂の存在を信じる沖縄では、最期の時を迎えた場所に霊魂を残してしまうと信じられてきました。そのため霊魂が共に自宅へ帰るよう、ご遺体から霊魂を抜いて、故人へ自宅へ帰ることを案内します。
多くの霊魂が最期の時を迎えたことを理解していなかったり、ご臨終を迎えたことで時が止まり、今なにが行われているのか(自宅に帰るなど)が分からないため、霊魂のみがこの世に取り残されて、その場所に残ると言われます。
最期の場所で取り残された魂は、その後の通夜や葬儀でのお供養を受け取ることができないので、フラフラと浮遊霊になったり、その土地に残る霊になってしまうとされ、それを避ける沖縄の葬儀儀礼が「ヌジファー」です。
この世で今行っている事柄をご案内してください。
沖縄の葬儀儀礼、ヌジファーで準備をするもの
沖縄の葬儀儀礼「ヌジファー(抜魂)」は、ご臨終を迎えた後、アミチュージ(湯灌)やグソースガイ(着替え)を終え、霊安室など次の場所へと移動する際、部屋を出る時に行ってください。
【 沖縄の葬儀儀礼、ヌジファーで準備をするもの 】
(1) お線香 … 日本線香であれば12本、ヒラウコー(平線香)ではタヒラ(2枚)
(2) 白紙 … 習字に使う半紙が適当です。シルカビと同じ作り方でも問題ありません。
(3) 白封筒
(4) サン … 「サン」は悪霊や低級霊などの「悪しきもの」を避ける魔除けの沖縄呪具で、すすきの葉などを結んで作ります。
※ サンの結び方(シルカビの作り方まで)などは上記イラストをご確認ください。
最近では在宅医療が進み、自宅で最期の時を迎えることが増えました。この時には、そのまま部屋を整えて小さな家族葬を行う家も増えましたが、この場合には移動する/移動しないに関わらずヌジファーをしてしまっても問題はありません。
沖縄の葬儀儀礼で大切な事柄は、その「場所(土地)」に霊魂を残さず、ウコール(香炉)の灰を通してイフェー(位牌)に移っていただくことです。
沖縄の葬儀儀礼、ヌジファーの進め方
最初に行う沖縄の葬儀儀礼がヌジファーですが、それほど長い時間を要する儀礼ではありません。ただ、故人はまだイチミ(生きる身=この世)の個性(感情や感覚、存在)を残していますから、生前と同じように話し掛けて進めてください。
【 沖縄の葬儀儀礼、ヌジファーの進め方 】
● ヌジファーを行う時には、枕元にサンを置きながら故人のお顔の近くで「○○さん」と生前のお名前を呼び、「一緒にお家に帰りましょうねー。」などと話し掛け、案内をします。
(1) ご遺体の枕元にサンを置き、悪しき魂が付かないように魔除けをする。
(2) お線香を束ねて左手に持ち、足元から左回りに3回、円をくるくるくると描きながら頭まで持って行く。(これで故人の霊魂がお線香に移ります。)
(3) 故人の霊魂が移ったお線香を、白紙に包む。
(4) 白紙に包んだお線香を、さらに白い封筒に入れる。
(5) ご遺体の胸元に差す。(着物でなければ胸元付近に添えておく。)
…これが、大切な家族が最期の時を迎えた後、最初に行う沖縄の葬儀儀礼、ヌジファーの手順です。
ご遺体を部屋から出す時
沖縄の葬儀儀礼、ヌジファーを終えたらご遺体を部屋から運び出しますが、この時も沖縄ならではのしきたりがあります。
【 沖縄の葬儀儀礼。部屋からご遺体を出す時 】
(1) ご遺体はイチミ(生きる身)と同じように、頭からではなく、足から出す。
(2) 家族がご遺体に続いて部屋から出た後、振り向いてはいけません。(その時は忘れ物をしても、すぐに戻らないようにしてください。)
沖縄には「シニフジョー(死に不浄)」の言葉があるように、死は不浄とされ、最期を迎えた場所には悪しきものも集まりやすいと言われてきました。
沖縄の葬儀儀礼、ヌジファーの結び
病院で最期の時を迎えた場合、霊安室へと一時期的に安置されますが、ヌジファーで故人の霊魂が移っているお線香は、ご自宅に着いた時にウコール(香炉)に拝してください。
※ ご自宅へ戻らず、そのまま火葬場へ向かう場合には、火葬前にお線香の入った白封筒を家族が保管し、ご遺骨のお帰りとともにウコール(香炉)に拝します。
この時行う沖縄の葬儀儀礼が、ヌジファーの結びです。
【 沖縄の葬儀儀礼。ヌジファーの結びとは 】
● 故人の霊魂をお家のウコール(香炉)の灰に、お線香から移す儀礼となり、煙を通してイフェー(位牌)へ故人の魂が祀られます。
(1) お線香を自宅のウコール(香炉)に拝する。
(2) 「お帰りなさい、家に戻ってきましたよ。」と故人に案内する。
白紙と封筒はカビバーチ(旧盆などにウチガミを燃やすボウルなど)で焚いても良いですし、捨てても問題はありません。
お家に帰ってきたら全国的には北枕ですが、沖縄ではイリマックァ(西枕)の地域が多くあります。(一部地域では南枕)これは霊魂の帰るニライカナイが太陽が沈む西方にあるとされるためです。
いかがでしたでしょうか、今回は沖縄の葬儀儀礼、故人の霊魂をご遺体から抜く「ヌジファー(抜魂)」の儀礼についてお伝えしました。
今では全国チェーン展開型の葬儀社も多く、昔ながらの沖縄の葬儀儀礼は行わないケースが多いですが、家族葬などでゆっくりと少人数で葬儀を進める時、より心を込めた葬儀の形、偲ぶ想いを表すひとつの方法として、ヌジファーを行う家族も増えています。
お線香と半紙(白紙)、白い封筒のみでできる沖縄の葬儀儀礼でありながら、故人の霊魂を感じて案内できる、心が伝わる方法です。
バタバタと手続きが進む最中、もしもふと思い出されたら、故人と会話をしながら、行ってみてはいかがでしょうか。
まとめ
沖縄の葬儀儀礼、ヌジファーとは
・霊魂をご遺体から抜く沖縄の葬儀儀礼
・ご臨終の部屋から出す時に行う
・白紙、お線香、白い封筒、サンを用意する
・サンを枕元に置き、移動することを案内する
・お線香を足元から頭へ3回回転させる
・お線香を白紙で包み、白い封筒に入れる
・故人の胸元に置いておく
・部屋を出る時には足から出す
・自宅に帰ったらお線香を香炉に拝する
・昔の沖縄では西枕が多かった