成人してから亡くなった娘の位牌を残し、仏壇じまいを行った康子さん(83歳・仮名)の体験談です。
沖縄では女性が実家で祀られる時、台所に小さな祭壇を設ける「サギブチダン(下げ仏壇)」の習慣がある地域もありますが、康子さんの家ではご先祖様と共に娘の位牌が祀られていました。
・「娘の」供養がしたい
・儀礼ではなく、娘を偲びたい
・娘を身近に感じたい
娘の位牌が先祖代々の仏壇に祀られることは有難いのですが、喪失感に悩む康子さんにとって、「より身近に娘を感じる、自由な供養がしたい」と思ったことが、仏壇じまいのきっかけです。
45歳で乳がんになった娘
●康子さんの娘、静香さん(61歳・仮名)は、ある朝起きたら亡くなっていました
康子さんは夫を亡くしてから、独身の静香さんと2人暮らしをしていましたが、ある朝、珍しく起床しない静香さんの部屋を訪れると、布団に寝たまま亡くなっていたのです。
警察署の解剖の結果、末期の乳がんだったことが分かります。
けれども康子さんは、静香さんが病院に行った様子もなく、もちろん本人からも乳がんの相談は受けていません。
●解剖医のお医者さんによると、「皮膚にも表れていて、本人が気づかない訳がない」と、言います。
なぜ、静香さんが気づいた時に病院へ行かなかったのか…、その真意は本人にしか分かりませんが、高齢になった康子さんの暮らしを日々サポートしてくれた、在りし日の静香さんを思うと、強い喪失感に苛まれたのでした。
夫が亡くなってから、管理するトートーメー
●康子さんの家には、夫と夫方のご先祖様が祀られるトートーメーがありました
夫と夫方のご先祖様のトートーメーながら、康子さん自体が高齢になり、旧盆も集まる親族の規模は小さいものでしたが、それでもトートーメーをお世話する者として、康子さんは旧盆やお彼岸、スーコー(※)を施主として執り行ってきました。
(※)スーコーとは「焼香」、全国的な弔事では「法要」にあたります。
●親族は高齢で亡くなる人も多く、今回も話し合うほどもなく、娘の静香さん単体が祀られる「カライフェー(唐位牌)」をトートーメーの脇に祀ります。
現代の戸建て住宅なので、昔ながらの平屋にある沖縄仏壇ではありませんが、押し入れをひとつ潰して仕立てた、大きな仏壇です。
そこでにご先祖様が宿るトートーメーと共に、娘の静香さんのカライフェー(唐位牌)を祀り、今までの先祖供養と同じように、日々お世話をしていました。
(※)カライフェー(唐位牌)とは、全国的な本位牌に見る、故人ひとり(もしくは夫婦)の魂が宿る位牌です。
儀礼で供養をしているような…
●ご先祖様と共に娘の位牌や仏壇のお世話をするものの、康子さんの喪失感はより募るばかりでした
今まで通り、日々のお茶やご飯の取り換え、沖縄の旧暦行事は習慣に倣いお供えも行い、スーコー(焼香)も小規模ながら決まり事通り、欠かさず行ってきましたが、康子さんの想いは晴れないまま、3年が経ちます。
●どこか喪失感が拭えないまま、トートーメーと娘の位牌が安置された、沖縄仏壇を眺めながら、こう思いました。・私は娘の魂が供養したい(供養の儀礼がしたい訳ではない)
確かに康子さんは、家のトートーメーを真面目にお世話してきました。
けれども義務として、祖霊(カミ)やご先祖様に感謝を捧げるのではなく、「静香」と言う娘の魂を偲びたい、弔いたいのだ、と感じたのです。
この体験談を話される時、康子さんはこのように言っています。
「これは感覚の問題だから、分からない人には分からないかもしれません。けれども私は、ご先祖様とかではなく、娘の魂と会いたかったのです。」
トートーメーのお世話が負担
●また娘を亡くして以降、康子さんには「トートーメーを担う」気力が無くなった、とも感じていました
娘の位牌を祀って弔いたい一方で、旧盆に夫の兄弟など親族が我が家へ集まったり、義理の両親がしてきたような、ご先祖様への行事をすることは、正直億劫でもあったと言います。
「ただ、娘の位牌を眺めていたかった」
そう感じた康子さんは、義理の妹(夫の妹)へ気持ちを吐露したところ、義理の妹から「位牌の永代供養」があることを聞きました。
位牌の永代供養とは
●「位牌の永代供養」とは位牌を家族に代わり、施設管理者が永代に渡り、位牌の管理・供養をすることです
「永代供養」とは位牌や遺骨など、お世話をする継承者が必要な祭祀財産に対して、家族に代わり霊園などの施設管理者が供養・管理をしてくれる、形のないサービスを表します。
そのため、ひと口に「位牌の永代供養」と言っても、その種類はさまざまです。
・位牌預かり…約3万円/3年間
・位牌堂…約3万円
位牌預かりでは一定期間ではありますが、個別に位牌を預かり保管してくれます。
期間中は個別の位牌に向かい供養ができますが、その分年間管理料が発生するでしょう。
一方、位牌堂は最初から他の御位牌とともに合祀供養されます。
お焚き上げを行い、位牌堂で定期的に合同供養されるでしょう。
位牌預かりでは一定期間個別に預かった後、位牌堂へ合祀供養される仕組みが多いです。
夫と娘の位牌のみ残し、仏壇じまい
●康子さんは、夫と娘の位牌のみを残した仏壇じまいを決断します
トートーメーには夫の位牌札が入っていましたが、これを娘の位牌と同じカライフェー(唐位牌)に仕立て直し、トートーメーを位牌堂で永代供養しました。
そして大きな沖縄仏壇を閉眼供養し処分します。
[1]夫の位牌を新しく仕立てる
[2]トートーメーを位牌堂で永代供養
[3]沖縄仏壇の閉眼供養
[4]仏壇じまい(仏壇・仏具屋さんに引き取ってもらう)
[5]夫と娘の位牌のみ、祀る
周囲に聞くと「仏壇は塩を振って燃えるゴミや粗大ゴミとして出しても良い」と言い、「気になるなら墓前でお焚き上げしたらいいよ」ともアドバイスをもらいます。
ただ康子さんは83歳の高齢で、個人で火を扱うことへの不安や、「このようなもので良いのかな?」との想いがありました。
閉眼供養はした方が安心
●「閉眼供養(へいがんくよう)」とは、お仏壇に宿った魂を閉じて「物」にする儀式で、通常はお坊さんに読経供養を依頼することです
檀家制度が根付いておらず、特定の菩提寺やご住職がいない家が多い沖縄では、多くは仏壇・仏具店や霊園などで、僧侶を紹介してもらう流れが多いでしょう。
・僧侶の読経供養へのお布施…約5万円
夫や娘の位牌を仕立てた仏壇・仏具店で僧侶を紹介していただき、3万円ほどの予算で閉眼供養を行いましたが、頼りのないなかで僧侶へ供養を頼ることは、とても安心できました。
夫や娘をイメージした小さな祭壇
●夫や娘の位牌に合わせ、眺めて二人をイメージできる可愛い祭壇を仕立てます
最初はリビングの棚上に、夫と娘の位牌のみを祀り、その前に三具足を並べていました。
リビング脇の小さな飾り棚に祀っていましたが、ステージの上に置くようになります。
(※)「三具足(みつぐそく)」とは、基本的な法具で①ハナイチ(花立て)②ウコール(香炉)③燭台(しょくだい/ロウソク立て)です。
●日々、夫や娘の位牌のお世話をして話しかけるうち、二人のイメージに合わせた小さな仏壇を仕立て直すことにしました。
・小さな上置き型仏壇…約18万円
・仏具セット…約3万7千円
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合計…約21万7千円
康子さんは、夫のカライフェー(唐位牌)を仕立てるにあたり、二柱が丁度収まるほどの、小さな祭壇も発見していました。
仏壇じまいで残した仏具を利用していましたが、夫や娘の位牌に合わせた可愛い仏具も購入し、リビングの康子さんがいつもいる場所に配置しています。
最後に
以上が娘を亡くした後に、夫と娘の位牌のみを残し、仏壇じまいを決断した康子さん(83歳・仮名)の体験談です。
最初は夫や娘の位牌を「ご先祖様としてではなく、故人の魂として供養したい」との想いから始まった仏壇じまいでしたが、康子さんご自身も高齢だったため、結果的に「終活にも繋がった」と感じていました。
そして康子さんは「私が亡くなったらどうなるか…」、義理の妹ももう高齢ですし、今回仕立てた位牌も、お世話をしてくれる人は期待できないでしょう。
●そこで今回トートーメーの位牌堂に永代供養を頼んだ際、残した夫や娘の位牌、自身の永代供養も予約しました
一般社団法人が運営している団体で死後事務委任契約も済ませ、康子さんは「納得している」と言います。
・沖縄の終活で役立つ「死後事務委任契約」とは?死後事務委任契約でできることや依頼先は?
まとめ
娘の位牌をきっかけに仏壇じまい、康子さんの体験談
・親子二人暮らしの娘が突然亡くなる
・トートーメーとともに祀るが違和感
・儀礼ではなく娘の魂を弔いたい
・夫と娘の位牌を残し、仏壇じまい
・夫の位牌は新しく仕立てる
・仏壇・仏具店で閉眼供養を相談
・夫と娘に小さな祭壇を仕立てる