檀家制度が根付いていない沖縄ではお仏壇に御本尊を中心に祀ることなく、トートーメー(先祖代々位牌)を中心に配置されますよね。
これは沖縄独自の、御先祖様が亡くなって七代目にして「カミ」となる「祖霊信仰」の供養文化のシンボルですが、一方で昔の沖縄ではお仏壇の他に床の間があり、床の間にはその家々で信仰する観音様や関帝公など、神様仏様を祀る習慣がありました。
けれども現代の沖縄の家では、お仏壇や床の間(トゥクヌカミ=床の神)、ヒヌカンを祀るスペースがなくなり、一時期は神様仏様を祀る習慣が途絶えつつありましたが、再び見直されています。
今回は、沖縄の新しい仏壇の流れと、見直される床の間の神様仏様(トゥクヌカミ)、新しい形についてお伝えします。どうぞ参考にしてください。
沖縄のトゥクヌカミ(床の神)

沖縄の仏壇に祀られるトートーメー(先祖代々位牌)に象徴される「祖霊信仰」、台所に祀る全国的には竈の神様として祀られる「ヒヌカン(火の神様)信仰」、アミニズム(自然崇拝)の姿でもある「御嶽(うたき)信仰」が、沖縄では三大信仰と言われています。
ただ昔ながらの沖縄では仏壇の他に「床の神」が中心にあり、家(ヤー)を守る神様としてヒヌカン(火の神様)とともに、トゥクヌカミ(床の神=床の間に祀る神様)を祀りました。
【 沖縄で仏壇の他に祀る神様仏様☆トゥクヌカミとヒヌカン 】
(1) ヒヌカン(火の神様)… ヒヌカン(火の神様)は代々母・義母から娘・嫁へ…、女性から女性へと継承される、家(ヤー)を災いから守る台所の神様です。
→ そのため日々の御願(拝み事)も家の女性(妻や母)が行います。違いはありますが、一般的には家の女性(妻や母)以外は触れてはいけないとする家も多いです。
(2) トゥクヌカミ(床の神/トゥクシン)… トゥクヌカミ(床の神)は父方の血族(真筋=マンジ)を通して継承されます。
→ そのため日々の御願(拝み事)も家(ヤー)を守る家長として、家の男性(夫や父)が中心です。また沖縄では仏壇より上位として、上座に祀るとされてきました。
沖縄では仏壇のトートーメー(先祖代々位牌)と同じく嫡男が引き継ぐとされ、次男以降は独立した後に新しく仕立てる流れになります。
ただ沖縄では仏壇やヒヌカン(火の神様)のように、代々継承(ヒヌカンの場合は香炉の灰をいただいて継承とします)する訳でもなく、各々が仕立てる傾向にあるため、一時期は廃れつつありました。
【 沖縄で男性が継承する仏壇とトゥクヌカミ 】
★ けれども近年では、女性の心の拠り所として「ヒヌカン(火の神様)」があるように、男性も心の拠り所として「トゥクヌカミ(床の神)」を祀る家が増えています。
沖縄では仏壇やヒヌカン(火の神様)とは違い、トゥクヌカミ(床の神)は継承に対して比較的自由であること、また御願は昔から女性が担う風習があったことから、トゥクヌカミ(床の神)が少なくなった原因かもしれません。
ただ継承に自由度が高く、各々で進める風習があると言うことは、それだけ自由に仕立てることも可能だ…、とも言えます。
トートーメーの永代供養と祖霊信仰

一方、沖縄で仏壇信仰・祖霊信仰とも言われるトートーメー(先祖代々位牌)の継承は、タブーが多いことで全国的にも有名です。
最も大きな柱が嫡男継承であるように、その昔は継承した者が家督も継いできましたから、琉球王朝から続くトートーメー文化において継承や相続での兄弟間トラブルを避ける意味合いもあったのかもしれません。
けれども現代の沖縄では、仏壇(トートーメー)継承のタブーが現実的ではないことから、継承者がいないままになる「トートーメー継承問題」が深刻化しています。
【 沖縄の仏壇に増えたトートーメーの継承問題 】
★ そこで近年急増している解決策が、トートーメーの永代供養です。寺院や霊園などの墓地を中心に、施設管理者が家族に代わって、永代に渡り供養してくれます。施設によって形はさまざまですが、大まかに下記2つのタイプに分かれるでしょう。
(1) 位牌の永代供養→ 位牌を他の家の位牌と一緒に合祀供養します。「位牌永代供養塔」などにまとめて収蔵されるため、お墓参りのようにお参りに行くことも可能です。
(2) 位牌堂→ 個別スペースに一定期間位牌が収蔵された後、合祀供養されます。個別のお参りができる他、一定期間内は個別に収蔵されるため、孫の代では継承できるなど、後々は引き取ることも可能です。
沖縄では仏壇のトートーメーに継承者がいない場合、親族などが預かる(アジカイグァンス)ケースもありますが、空き家になった元の実家に祀られたまま、管理のみ行う家も多いです。
継承する者がいなくなった沖縄の仏壇(トートーメー)は、「ヒジュルグァンス(冷たい位牌)」と言われ、最も忌み嫌われるとされてきました。
そのため沖縄で仏壇(トートーメー)の継承者がいない場合には、永代供養をして日ごろの供養や管理をしていただき、お墓のように定期的にお参りをする選択が選ばれるようになりました。
床の間が見直される現代

ただ沖縄では仏壇(トートーメー)信仰は、その昔から人々の心を支えてきた大きな柱です。家からトートーメー(位牌)を出して永代供養をしてしまうと、家内には祖霊(ご先祖様)がいなくなってしまう…、と考える方も少なくありません。
沖縄では仏壇に祀られた故人は、亡き後七代目にして家(ヤー)を守る「カミ」になります。神様でも仏様でもありませんが、「カミ」が家の中心です。
特に沖縄で仏壇は家長である男性が継承・御願を担ってきました。その対象を失ってしまうのですから、心もとなく感じる方も少なくありません。
【 沖縄の仏壇☆床の間が見直される背景 】
● そこで家長である男性が「家を守る」心の拠り所として、改めて見直されてきたのが、トゥクヌカミ(床の神)でした。
→ 特に2020年以降のコロナ禍では、予想できない/自分で予防や対処ができない事態による経済的、健康的不安が続き、トゥクヌカミ(床の神)を仕立てる家が急増しています。
またトゥクヌカミ(床の神)は、トートーメーと比較して自由度が高くタブーが少ないため、それぞれの家で心のままに御願ができる点も、急速に広がった背景ではないでしょうか。
一方、沖縄で仏壇を残してトートーメー(先祖代々位牌)のみを永代供養した家では、両親や祖父母など、関わりのある近しい故人のみをカライフェー(唐位牌=個人の位牌)に移して祀る事例も増えました。
【 沖縄の仏壇☆唐位牌を祀る家 】
● そこで「カミ」となった祖霊を永代供養したとして、各々の家で自由に選んだ神様仏様を祀る風潮が産まれています。
→ 本州の仏壇と似てはいますが、檀家制度が根付いていない沖縄の仏壇は、本州のように宗旨宗派に倣った御本尊を祀るのではなく、それぞれの家で自由に観音様や菩薩様などを選び祀る傾向です。
沖縄の御願文化では干支も大事にしていますので、家族の干支を守る「守り本尊」を祀るケースも多くありました。
※ 沖縄の干支による守り本尊については別記事「沖縄で守り本尊を祀るミニ仏壇☆ニーズ急増の背景と迎え入れ」でお伝えしています。
またトゥクヌカミ(床の神)の昔ながらの拝み方も、別記事「沖縄のミニ仏壇で祀るトゥクヌカミ(床の神)☆拝み方・祀り方」でお伝えしていますので、コチラも併せてご参照ください。
沖縄でミニ仏壇を床の間に見立てる

ただ、昔の沖縄では仏壇より上座に当たる一番座に床の間がある間取りでした。(昔の沖縄では仏壇が二番座にありました。)
けれども現代の間取りは床の間がもともとない家がほとんどです。分譲マンションも増え、そもそも床の間らしいスペースを設けることも難しい家が多いでしょう。
【 沖縄でミニ仏壇を床の間に見立てる 】
★ そこでリビングの一角にミニ仏壇を仕立て、床の間に見立てる家が増えています。ハガキサイズほどの台座から、サイズはバリエーションが豊かなので、仕立てやすいためです。
→ さらに昔の沖縄ではトゥクヌカミ(床の神)は掛け軸で祀る家がほとんどでしたが、現在では小さな像を祀ったり、なかには生け花などの抽象的なシンボルとする家も増えています。
またトゥクヌカミ(床の神)の神様は、昔は観音様や関帝公、福禄寿などでしたが、今ではよりバリエーションが豊かです。虎の絵を飾る家もありますし、鶴亀も見受けるでしょう。
この他にも、祖霊である「カミ」をトートーメータブーのない「カミ」として、名を彫らない位牌や「〇〇家」などの彫刻で祀る家も見受けます。
いかがでしたでしょうか、今回は沖縄で増えたミニ仏壇に祀るトゥクヌカミ(床の神)についてお伝えしました。
沖縄では仏壇に象徴される祖霊信仰が深く根付いていますが、同時に子どもが産まれれば集落の観音様へ報告するなど、神様仏様とも深い繋がりがあります。
確かに檀家制度が根付いていない沖縄では宗旨宗派を持たない家がほとんどなので、独自の御願文化を中心とした神仏混合が一般的です。
けれども観音様を床の間に祀る家では旧暦9月18日には観音拝みを行くなど、それぞれの方法で信心深く拝みをしてきました。後世に残す意味合いでも、改めて沖縄でミニ仏壇に祀りながらでも、トゥクヌカミ(床の神)の存在を残してみてはいかがでしょうか。
まとめ
沖縄で床の神が見直される理由
●ヒヌカンとトゥクヌカミの違い
(1)ヒヌカン
・女性へと継承される
・日々の御願も家の女性が担う(2)トゥクヌカミ
・父方の血族で継承
・日々の御願も家長(夫や父)が担う●トートーメーの永代供養が増えた
・家に「カミ」がいなくなった
・代わる神様としてトゥクヌカミが見直された●床の間をミニ仏壇に見立てる流れ
・現代の家では床の間がない
・ミニ仏壇を床の間に見立てて祀る
・檀家制度がなく、選ぶ神様仏様は自由な風潮