「沖縄で守り本尊を祀るミニ仏壇☆ニーズ急増の背景と迎え入れ」では、沖縄でトートーメー(先祖代々位牌)の永代供養が進む一方、家を守る神様として床の間に祀る「トゥクヌカミ(床の神)」が見直されてきた流れについてお伝えしました。
沖縄では仏壇(トートーメー)やヒヌカン(火の神様)を祀る習慣もありますが、そのなかでもトゥクヌカミ(床の神)は、選ぶ神様や祀り方など、比較的自由度が高い傾向です。
特に四方八方の方位と午前12時間午後12時間の時間を司る「十二支」は沖縄で信仰が根付いているため、十二支を守護する「守り本尊」をトゥクヌカミ(床の神)として祀る家が急増しています。
ただ守り本尊にはそれぞれに特徴があるため、理解してからお迎えをしたいですよね。
今回は今家を守るトゥクヌカミ(床の神)として、沖縄で仏壇に代わり増えている守り本尊について、それぞれの神様の特徴についてお伝えします。どうぞ参考にしてください。
現代の沖縄でミニ仏壇に祀るトゥクヌカミ
昔ながらの沖縄でトゥクヌカミ(床の神)は床の間に祀られてきた神様です。昔の間取りでは一番座(裏座)/二番座(裏座)/三番座(裏座)があり、沖縄では仏壇が二番座、床の間はその上座に当たる一番座に設けられてきました。
※ 昔ながらの沖縄の家、仏壇の位置や間取りについては、「【沖縄の旧暦行事】屋敷の御願(旧暦12月24日)の拝み方・その2」などでイラストにて解説しています。
けれども現代は間取りそのものが代わり、沖縄ではお仏壇の位置はもちろん、床の間スペースのある家はほとんどありません。
そのため一時期は廃れつつありましたが、不安定な現代において家を守護する神様として、リビングの一角に小さなステージを仕立て祀る家が急族に増えているのが現状です。
【 沖縄でミニ仏壇に祀るトゥクヌカミ(床の神) 】
● ただ、トートーメー(先祖代々位牌)の深刻化する継承問題により、トートーメーの永代供養が増えた現代の沖縄では、お仏壇に祀る家も増えてきました。そのため、現代トゥクヌカミ(床の神)は、下記2通りの方法で祀られる傾向にあります。
(1) 手元供養で扱うミニステージ(ミニ仏壇)で単独に祀る。
→ 昔ながらの沖縄で一番座に当たるリビングの一角に、手元供養で扱うようなハガキ~A4用紙サイズほどの小さなステージ(ミニ仏壇)を床の間に見立て、そこにトゥクヌカミ(床の神)を祀る方法です。
(2) リビングのお仏壇に位牌と共に祀る。
→ 本州のお仏壇に似た形式です。「カミ」となった祖霊を永代供養したため、「カミ」の代わりに守り本尊を祀り、両親や祖父母など、個人の魂(位牌)と共に守護していただく意味合いで祀ります。
そもそも沖縄では仏壇(トートーメー)を祀る家はムチスク(宗家/本家)のみで、分家では近しい家族がいないと、なかなか沖縄では仏壇を仕立てません。
そのため今の沖縄では(1)のように、ミニステージなどで小さなスペースをリビングに儲けて、イメージで言うとヒヌカン(火の神様)のように祀る家が多いでしょう。
※ ヒヌカン(火の神様)もステージが小さくなっている現代ですから、よりコンパクトなイメージです。
観音様/如来様を祀る
沖縄で最も親しまれている神様仏様が観音様ではないでしょうか。沖縄では多くの集落で観音様の祠や観音寺があり、地域で子どもが産まれると観音様へお披露目に行き、子どもの健康を祈願する習慣がありました。
そのため沖縄ではミニ仏壇に観音様を祀る家が今も多いです。特に子どもがいる家庭では、家族の健康を守護するとして、観音様を選ぶ傾向にあります。
一方、如来様は仏の世界では頂点の位に当たり、真言密教など宗旨宗派によっては「宇宙」などとも表現される仏様です。
【 沖縄でミニ仏壇に祀る守り本尊☆観音様 】
(1) 千手観音…子(ねずみ)
→ そもそも「観音様」は正式には「観音菩薩」ですので後述する菩薩様に入ります。京都に「三十三間堂」がありますが、三十三のお姿を現すとされ、さまざまな観音様が沖縄でも親しまれてきました。
十二支の守り本尊では千手観音様、正式には千手千眼観自在菩薩(せんじゅせんげんかんじざいぼさつ)がいらっしゃいます。名前の通り千の手・千の眼で衆生を救う慈悲深い仏様です。
●御利益 → 厄祓い/健康/夫婦和合/病気平癒/延命/恋愛/子(ねずみ)年守護
沖縄で親しまれる観音様は「三十三の姿」に変化するため、千手観音様のその一尊となり、沖縄では千手観音様に限らず、旧暦9月18日の観音拝みがあるなど、広く信仰されてきました。
【 沖縄でミニ仏壇に祀る守り本尊☆如来様 】
(2) 大日如来…未(ひつじ)/申(さる)
→ 密教の中心物である大日如来は宇宙そのものとされ、全ての仏は大日如来の化身とも言われます。別名を毘盧遮那仏(びるしゃなぶつ)、「宇宙そのもの」とされるように、個人的な祈願事よりも世界平和など、大きな祈願事に向いているとされてきました。
● 御利益 → 世界平和/現世安泰/祈願成就/未(ひつじ)申(さる)年守護
(3) 阿弥陀如来…戌(いぬ)/亥(いのしし)
→ 無量寿如来とも言われ、寿命のない阿弥陀如来は「南無阿弥陀仏」と唱えるだけで、すぐに成仏するとされる浄土真宗の御本尊様です。そのため御利益はとてもシンプルで、「南無阿弥陀仏」と唱えた全ての人々を極楽へ導きます。
● 御利益 → 世界平和/長寿(大往生)/極楽へ行く
千手観音様は沖縄では首里観音堂(那覇市首里山川町3-1/TEL:098-884-0565)に、他の仏様(虚空蔵菩薩様など)と共に祀られています。
一方、大日如来様は盛光寺(那覇市首里儀保町3-19/TEL:098-884-369)、阿弥陀如来様は達磨寺(那覇市首里赤田町1-5-1/TEL:098-884-1077)で祀られていますので、お迎えや定期的なご挨拶に訪問してみてはいかがでしょうか。
菩薩様を祀る
前述した観音様も菩薩様ですが、沖縄でミニ仏壇に祀られる守り本尊には、この他にも虚空蔵菩薩様や勢至菩薩様など、より得意分野がハッキリとした菩薩様も多く見受けます。
菩薩様は大日如来様の両脇に祀られることも多い仏様ですが、世界平和など、如来様が大きな祈願事に向いているのに対して、菩薩様はより人々の暮らしに近い祈願事を叶えてくださると言われてきました。
【 沖縄でミニ仏壇に祀る守り本尊☆菩薩様その1 】
(4) 虚空蔵菩薩…丑(うし)/寅(とら)
→ 虚空蔵菩薩様と言えば「記憶力」、宇宙の全記憶を司る菩薩様です。虚空蔵菩薩様のご真言を百万回唱える「虚空蔵求聞持法」では壮大な記憶力を得るとし、空海も実践したとされています。
● 御利益 → 記憶力増幅/成績アップ/頭脳向上/技事の習得/丑(うし)寅(とら)年守護
(5) 文殊菩薩…卯(うさぎ)
→ 虚空蔵菩薩様に御利益が似ている菩薩様が「知恵」の文殊菩薩様です。「三人寄れば文殊の知恵」の文殊はこの菩薩様に由来します。理想的な人格、リーダー、人生の修行者として、特に禅の世界で親しまれています。
● 御利益 → 学業成就/頭脳明晰/智慧/判断力向上/洞察力向上/リーダーシップ/卯(うさぎ)年守護
沖縄のミニ仏壇では意外にも文殊菩薩の方が人気傾向です。虚空蔵菩薩がより天才的であるのに対し、文殊菩薩は秀才型で理想的な修行僧として知られるため、日々鍛錬できる精神力を求めて、受験生や研究者、学業に励む人々に祀られてきました。
【 沖縄でミニ仏壇に祀る守り本尊☆菩薩様その2 】
(6) 普賢菩薩…辰(たつ)/巳(み)
→ 普賢菩薩様の特徴は「智慧」であり賢さです。「普賢」は常に賢いことを表しますが、法華経では女性を救済する菩薩様として広がりました。またお姿を変えた「普賢延命菩薩」様は、人々の命を延命します。
● 御利益 → 女性の救済/延命/智慧/悲願達成/小さな幸福を育てる/辰(たつ)巳(み)年守護
(7) 勢至菩薩…午(うま)
→ 人々が無知のために地獄道や餓鬼道へ落ちないよう、あまねく智慧の光を注いで正しい道(物事の在り方)を見せる菩薩様です。悪道から正道へ人々を導く力があります。
● 御利益 → 災いを除く/家内安全/厄祓い/百果報(福を招く)/判断力/智慧/午(うま)年守護
お寺では文殊菩薩様と普賢菩薩様は釈迦如来様の両脇侍(りょうわきじ)として祀られることが多く、勢至菩薩様は観音菩薩様とともに「阿弥陀三尊」として、阿弥陀如来様の両脇侍(特に右脇侍)として祀られてきました。
「沖縄で守り本尊を祀るミニ仏壇☆ニーズ急増の背景と迎え入れ」で詳しくお伝えしていますが、虚空蔵菩薩様/普賢菩薩様/勢至菩薩様は首里観音堂に、文殊菩薩様は阿弥陀如来様とともに達磨寺に祀られています。
明王様を祀る
沖縄ではミニ仏壇にトゥクヌカミ(床の神)として祀る際、その昔から明王様を祀る家も多くありました。「喝っ!」と言われているような怖い表情やお姿は、如来様の変化した姿です。
優しく智慧を授け導くか、厳しい態度で悪道へ流れぬように導くか…、の違いではないでしょうか。沖縄でミニ仏壇に明王様を祀るケースでは、日々自分を見直し精進して生きる覚悟として、選ぶ家が多いのかもしれません。
【 沖縄でミニ仏壇に祀る守り本尊☆明王様 】
(8) 不動明王…酉(とり)
→ 密教では護摩法など修行法における御本尊で、この世の全ての「魔」を打破する破格の力で、悪人全ての魔を祓い正道へ導き、修行者を守護するとされてきました。
● 御利益 → 修行者の守護/「魔」祓い/勝負に勝つ/厄祓い/災難祓い/道を開く/酉(とり)年守護
正道を歩む修行者を邪魔する「魔」に対しては憤怒をもって徹底的に倒しますが、修行者をとことん守護するとされ、日々鍛錬に励むスポーツ選手など、勝負事が身近にある家に多く選ばれています。
いかがでしたでしょうか、今回は沖縄でミニ仏壇に祀る「トゥクヌカミ(床の神)」として選ばれている十二支の守り本尊について、それぞれの特徴や御利益についてお伝えしました。
ただ現代の沖縄ではミニ仏壇に仏像や掛け軸を必ずしも祀る必要はなく(祀る家もありますが)、一度お参りをした後に香炉と水、お茶、お酒を供えて仕立てる家も多いです。日々拝むことでウトゥーシ(お通し)されるでしょう。
「御利益」とありますが、沖縄では仏壇もヒヌカン(火の神様)もトゥクヌカミ(床の神)様も、日々御願立てにより祈願をしているとは言いますが、「○○円儲かりますように!」などの御願立てを常に行う家はあまりありません。
多くは今日の日が平穏であり家族が繁栄し家内安全、夫婦・親子和合を祈願するとともに、今日も一日、自分が「誠実に丁寧に生きます」と言ったことを宣言する意味合いが強いのではないでしょうか。
日々の暮らしのなかで、心の糧、拠り所となる拝み処として、より親しみのある神様仏様を選ぶと良いかもしれません。
まとめ
十二支の守り本尊、それぞれの特徴
(1)千手観音→千の手・千の眼で衆生を救う
(2)大日如来→大きな祈願事に向いている
(3)阿弥陀如来→全ての人々を極楽へ導く
(4)虚空蔵菩薩→全宇宙の記憶を司る
(5)文殊菩薩→知恵を司る、学業/修行の模範
(6)普賢菩薩→智慧と女性の救済、延命
(7)勢至菩薩→智慧の力で悪道から正道へ導く
(8)不動明王→悪人の魔を祓い正道へ導く/修行者守護