・沖縄の物忌み行事「シバサシ」とは?
・沖縄の悪霊祓い行事「ヨーカビー」とは?
・沖縄の「八月カシチー」とは?
沖縄の旧暦8月は、悪霊祓い行事が多いです。
旧暦8月8日~11日に悪霊祓い行事「ヨーカビー(八日日)」、旧暦8月9日~11日は家に結界を張る「シバサシ(柴差し)」が行われます。
本記事を読むことで、沖縄の悪霊祓い行事ヨーカビーやシバサシとは何かが分かり、沖縄に古くから伝わる悪霊祓いや、結界の張り方が分かります。
後半にはシバサシと同日に行うことの多い「八月カシチー」についても解説していますので、どうぞ最後までお読みください。
沖縄のヨーカビーやシバサシとは?
◇沖縄のヨーカビー(八日日)は悪霊を見つけて祓い、シバサシ(柴差し)では家への侵入を防ぎます
旧暦8月は旧暦7月13日~15日に旧盆を終えた頃です。
この時期は、旧盆中にご先祖様について降りてきた無縁仏や餓鬼、チガリムン(悪霊)などが浮遊していると考えられてきました。
・ヨーカビー(八日日)…悪霊・悪疫を見つけて祓う
・シバサシ(柴差し)…家に結界を張り、魔物の侵入を防ぐ
またシバサシ(柴差し)は、お米や小豆の収穫を祝い感謝する「八月カシチー」と同日に行う家も多いでしょう。
一時期は廃れつつあったヨーカビーやシバサシですが、2020年のコロナ襲来により、家の繁栄と疫病払いを目的として、家庭内で行う家が増えています。
ヨーカビー、シバサシはいつ行うの?
◇ヨーカビーは旧暦8月8日~11日、シバサシは旧暦8月9日~11日頃です
旧暦8月前半に行うことを目安として、決まった日にちはありませんが、沖縄では昔から下記日程でヨーカビーやシバサシを行ってきました。
<ヨーカビーやシバサシの日程> | ||
[旧暦行事] | [旧暦] | [新暦] |
・ヨーカビー | 旧暦8月8日~11日 | 2024年9月10日(火)~9月13日(金) |
・シバサシ | 旧暦8月9日~11日 | 2024年9月11日(水)~9月13日(金) |
八月カシチー(ハチグァッチカシチー)は、シバサシと同日に行う集落もあれば、旧暦8月10日や15日頃、シバサシとは別に行う集落もあります。
シバサシの前、ヨーカビーの進め方
◇ヨーカビーは旧暦8月8日~11日(2024年9月10日(火)~9月13日(金))、悪霊・厄祓いの行事です
2024年9月10日(火)~9月13日(金)に当たり、夜間に街頭がなく真っ暗だった頃の沖縄では、集落の人が高台に登り、火の玉が上がっている家はないか確認しました。
<昔のヨーカビーのやり方> | |
[やること] | [内容] |
・ヨーカビー | 火の玉を高い丘から確認 |
・ヤナムンバレー | 爆竹など、音の出るものを鳴らす |
・ムンナレー |
ユタさんによる御願 |
昔の沖縄では、「旧暦8月、不吉事が起きる家で火の玉があがる」…と信じられてきたためです。
「不吉事」とは3年以内にその家で死者が出ること…、火の玉はその予兆と信じられてきました。
現代のヨーカビー
ただし現代では、夜間になっても街頭で集落は明るいですし、集落を見渡す小高い丘もありません。
集落単位のヨーカビーはほとんど廃れ、現代は家族の旧暦行事になっています。
・家の中で柏手(かしわで)を打つ
・ヒヌカン(火の神様)への御願(拝み)
・門前で花火を楽しむ
現代の沖縄では爆竹を鳴らすと迷惑が掛かるため、ヨーカビーに門前や庭で花火を楽しむ家も増えました。
ヨーカビーの「火の玉」とは?
◇ヨーカビーで払う火の玉の正体は、怨みを残した死者の魂です
ヨーカビーは旧暦8月8日から行うため、「八日日」とも書きますが、「妖怪火」とも書きます。
妖怪としても例えられますが、沖縄の高齢者であれば「首里識名坂の遺念火(イニンビー)」などの昔話も身近にあったため、「怨みをつのらせた死者の魂」と捉える人が多いでしょう。
・ヨーカビー(妖怪火)…妖怪の魂が宿る霊
・イニンビー(遺念火)…恨みをつのらせた怨霊
・ヤナカジ(悪霊)
・マジムン(魔物)
その昔は人の生き死にが関わっていると信じられてきましたから、集落によっては、見張り用の小屋を建て、夜通し確認をしていた集落もあるほどです。
ヨーカビーの「火の玉」は誰でも見えた?
本州のように火の玉は霊感が強い人や、墓地などで見るものではなく、沖縄ではセジ(霊力)のない一般人でも普通に見るものとして認識されていました。
前述したように、沖縄では悔恨を残した死者の魂にまつわる昔話も多くあります。
・首里識名坂のイニンビー
・伊江島ナカンカリマカトのイニンビー
・北谷謝苅坂のイニンビー
いずれも嫉妬による他人の虚偽の告げ口を発端とした、哀しい夫婦の話など、非業の死を遂げた夫婦一組のイニンビーによる伝承が多いのが特徴です。
そのためイニンビーも夫婦2つの火の玉が見つかると言われています。
ちなみに火の玉自体も沖縄での呼び名はさまざまです。
・ヒーダマ(火の玉)
・タマガイ
・ヨウカ(妖火)
・ヨーカビー(妖怪火)
ただ、火の玉はその家の不吉を知らせるものとして忌まれながらも、恐ろしい存在ではなく、沖縄では集落をふらふらと浮遊する性質として捉えられてきました。
ヨーカビーの「チグトゥの音」とは?
◇「チグトゥの音」とは、夜な夜な棺を作る音です
また沖縄では旧暦8月8日~11日頃に掛けて、「チグトゥ」の声が聞こえるとも言われてきました。
[チグトゥとは]
・葬儀道具を作る道具
[ヨーカビーのチグトゥとは]
・夜な夜な葬儀道具を作る音が聞こえる
その昔はユタさんを呼んで未来を予知してもらい、厄祓いをしてきました。
…沖縄では旧暦8月8日からのヨーカビーで、このようなさまざまな不吉事である火の玉を祓ってきたので、ヨーカビーは「たまがり(玉離り)」などとも言われます。
善い「ヨーカビー」とは
◇ヨーカビーには、ご先祖様や精霊など、善きものもあります
ヨーカビーで見る火の玉は、ヨーカビー(妖怪火)やイニンビー(遺念火)とされていますが、精霊やご先祖様など、善き魂とする集落もあります。
<親しまれるヨーカビー> | |
・キジムナー火 | 樹木や森の精霊キジムナーの火の玉 |
・アラミ(現見) | ヨーカビー見物をする行事 |
そのため悪霊祓い行事としてではなく、慰霊行事として踊りを踊って奉納していた集落も見受けます。
シバサシのお祓いとは
◇「シバサシ(柴差し)」とは、家の四隅に柴を差して結界を張る行事です
ヨーカビーで悪霊祓いをした後、沖縄では旧暦8月9日~11日にシバサシを行い、ヤー(家・屋敷)に結界を張って、不吉事から家族を守ります。
[日程]
・毎年旧暦8月9日~11日
・2024年9月11日(水)~13日(金)
[やること]
・魔除けのサンやゲーンを作る
・家の四隅、門などにサンやゲーンを差す
ヨーカビーで不吉事を追い払いシバサシで結界を張る、と言う流れですね。
ヨーカビーとは違い、物忌み行事の意味合いが強いと考えてください。
シバサシで差す、サンやゲーンとは
◇シバサシで家の四隅に差す「サン」や「ゲーン」はいずれも魔除け呪具です
沖縄の魔除け呪具としてはシバやススキで縛る「サン」が有名で、小さなサンである「サングァー」は、お弁当や重箱料理など、料理の上に乗せます。
いずれも縛る植物は、シバ(柴)やススキ、イトバショウですが、本数などの違いです。
<シバサシで差すサンやゲーンとは> | ||
[魔除けの呪具] | [作り方] | [強力さ] |
・サングァー | 1本結ぶ | 最も弱い |
・サン | 3本結ぶ | 中くらい |
・ゲーン |
3本を桑の枝と結ぶ | 最も強い |
沖縄では旧暦8月に多くの火の玉やチグトゥが確認されるとされ、ヨーカビーのお祓い後に結界を張るので、シバサシではゲーンも多く用います。
シバサシで差す場所とは
◇家の四隅の他、敷地内の出入口となる場所に差すと良いでしょう
沖縄ではヨーカビーやシバサシなどの悪霊祓い行事を「ヤナムンバレー(悪霊祓い)」と呼び、「嫌な感じ」がする場所であればどこでも、守りたいものであれば、お弁当など、何にでもサンを差しました。
・ヤナムンバレー(悪霊祓い)
・ヤナムンムンヌキ(嫌なものを除ける)
・ヤナムンゲーシ(嫌なものを跳ね返す)
そのため、シバサシで「差してはいけない場所」はほとんどありません。
笑い話では「赤ちゃんのお尻にサンを付けた」なども良く聞きます。
・家の四隅
・倉庫(収穫した農作物や家畜小屋など)の四隅
・門
・出入口
シバサシなので「差す」と捉えがちですが、結べない、差せない場所では、花瓶などに差しても問題はありません。
シバサシを行う時の言葉
神様へ唱えるグイス(祝詞)ではないのですが、沖縄では旧暦行事だけではなく、ちょっとした悪霊祓いでも、下記のような言葉でお祓いをします。
●ヤナカジ シタナカジ、ワッサ ビナサヤァー、ウスヌキティー クィミスーリー
「悪霊や穢れた魂、悪い事柄や穢れた事柄は、全部お祓いくださいますように…」の意味です。現代の言葉で伝えても問題はありません。
シバサシは柴でなければダメ?
◇シバサシでは、ススキやイトバショウ、桑で作っても良いです
シバサシのサンやゲーンは、シバやススキ、イトバショウとお伝えしましたが、一般的にはススキと桑の呪力が強いとされます。
[ススキ]
・剣のような葉でヤナカジを祓う
・パワー(繁殖力)の強さでヤナカジを圧倒する
[桑]
・中国で聖なる樹とされてきた
またサンがサングァーよりも呪力が高いのには、「3」の数字が陽(奇数)のなかでも聖なる数字とされてきたためです。
このような信仰から、沖縄では何か怖いことがあると「クァーギヌシチャイ(桑の木の下へ)」などのまじない言葉があります。
全国的にも「くわばら、くわばら」などがありますが、これも「桑」が語源ではないでしょうか。
シバサシと行う、八月カシチーとは
◇「八月カシチー」とは、米や小豆の収穫祭です
沖縄ではシバサシと同じ日程(旧暦8月10日)で、米や小豆の収穫祭「八月カシチー」の御願を行います。
ただ現代の沖縄では農耕も廃れ、それぞれの家庭でご飯を美味しくいただけるだけの、安定した収入「クェーブン(食べる運)」への感謝と祈願行事となりました。
「豊かで安定した収入を得られますように」
「家族みなが無病息災でありますように」
「ヤナカジ、シタナカジを祓いのけられますように」
ヤナカジ・シタナカジは悪い霊や悪疫などです。
無事に豊かな収穫(現代では報酬)をいただいていることに感謝を捧げ、シタナカジ(悪疫)を払い、と祈願します。
八月カシチーのお供え物
◇八月カシチーでは、お赤飯を供えます
「八月カシチー」は「ハチグァッチカシチー」と呼ばれてきました。
漢字で書くと「八月強飯」と書き、小豆の収穫時期にも重なるためお赤飯を炊く家が多いでしょう。
[八月カシチーのお供え物]
・赤カシチー(赤飯おこわ)
[供える場所]
・お仏壇
・ヒヌカン(火の神様)
昔ながらの沖縄では、旧暦8月10日の日中にシバサシをして結界を張った後、夕方~夜に掛けて赤カシチー(赤飯おこわ)を、ヒヌカン(火の神)とお仏壇へ供えます。
ヒヌカン(火の神)は神様なので、お箸もなく赤カシチーのみをお供えします。
お仏壇には赤カシチーの膳に、お箸も添えて供える家が多いでしょう。
沖縄のカシチーは年2回、旧暦6月25日の六月カシチーと八月カシチーがありますが、六月カシチーが白おこわであるのに対して、八月カシチーは赤飯の違いがあります。
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八月カシチーのお線香
八月カシチーは、ヒヌカンには十五本御香、お仏壇には十二本御香です。
[ヒヌカン]
●ジュウゴフンウコー(十五本御香)
・日本線香→5本もしくは15本
・ヒラウコー(沖縄線香)→タヒラ半(2枚半)
[お仏壇]
●ジュウニフンウコー(十二本御香)
・日本線香→4本もしくは12本
・ヒラウコー(沖縄線香)→タヒラ(2枚)
八月カシチーに限らず、沖縄の御願行事ではお仏壇などご先祖様にはジュウニフンウコー(十二本御香)、ヒヌカンなど神々様へはジュウゴフンウコー(十五本御香)が多いでしょう。
・沖縄のコーブン(お線香の本数)☆心を重視する自由な拝み
ヨーカビーやシバサシは悪霊祓い行事です
沖縄の旧暦8月に行うヨーカビーやシバサシは、旧暦7月の旧盆明けに行う悪霊祓い行事となり、ヨーカビーで悪霊を祓い、シバサシで結界を張ります。
2024年はヨーカビー・シバサシが過ぎた翌週明けすぐ8月16日(月)が敬老の日であり、シルバーウィークの始まりです。その週末の日曜日は秋分の日であるため、2024年9月19日(木)~25日(水)はお彼岸の7日間として忙し方が多いかもしれません。
まだ残暑の暑さが残る旧暦8月8日~11日、2024年9月10日(火)~13日(金)のヨーカビーやシバサシの時期に、花火を楽しみ悪霊を祓い、お赤飯を炊くのも良いかもしれません。
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