沖縄の先祖代々位牌「トートーメー」には、祀り方に種類があります。
これは沖縄トートーメータブーを回避するうちに種類が分かれたため、本来はそのまま祀るものではないものも多いです。
(1)アジカイグァンス(預かり位牌)
(2)永代脇位牌
(3)ヒジュルグァンス(冷たい位牌)
(4)サギブチダン(下げ位牌)
(5)ウンヌグァンス(恩の位牌)
今回は、沖縄でトートーメータブーにより分かれた種類の解説と、今後起こり得る問題、その対処方法を解説します。
沖縄トートーメーに種類がある理由
●沖縄トートーメーの種類が分かれた理由は、タブーを回避した結果です
沖縄の先祖代々位牌「トートーメー」は、代々長男が継承するとされ、長男以外や女性が継承するなど、タブーを犯すと祟りが起きると信じられてきました。
ただ時代とともに長男が継承することが難しくなります。
[1]長男がいながら次男以降の継承は禁忌
[2]娘の継承はならない
[3]長男がいない場合、父方の血筋を引く男性が継承
[4]次男以下は分家する
つまり沖縄のトートーメーは長男、もしくは父方の血を引く男性が継承しなければならず、本州や海外に移住した長男が継承しない、などの理由で、トートーメーだけが取り残される「トートーメー継承問題」が深刻化しています。
ただ昔からタブーに困る家は多く、結果的に沖縄ではトートーメーを祀るための、種類が多様化したのです。
・沖縄のトートーメーでは4つのタブーが継承問題に繋がっている!問題を解消する方法は?
沖縄トートーメー5つの種類
●沖縄では、祀るトートーメーに5つの種類があります
純粋に代々長男が継承してきた沖縄のトートーメーは種類もひとつです。
ただ、例えば一時的に預かっている、本来は分家すべき次男以降のイフェー(位牌)があるなど、沖縄の家で祀られるトートーメーには、5つの種類があります。
(1)アジカイグァンス(預かり位牌)
(2)永代脇位牌
(3)ヒジュルグァンス(冷たい位牌)
(4)サギブチダン(下げ位牌)
(5)ウンヌグァンス(恩の位牌)
※「グァンス」は沖縄の言葉で「元祖」、「ブチダン」は沖縄の言葉で「仏壇」ですが、ここでは位牌としました。
純粋な代々継承してきた沖縄トートーメーと区別するため、沖縄の家でこれらのトートーメーを祀る場合、種類によって祀り方や祀る場所を変えなければなりません。
(1)アジカイグァンス(預かり位牌)
●「アジカイグァンス(預かり位牌)」とは、一時期的に預かって祀る位牌です
では、どのようなトートーメーを預かるのかと言えば、さまざまなパターンがありますが、一般的には継承者がいなくなり引き取り手のいないものを預かります。
・継承者が途絶えた
・次の世代で継承者が現れる可能性
・引き取り手がいない
・血縁関係のない家が、一時的に預かっている
・元の家に残してお世話をする
最近は少子高齢化により、昔のように安定して代々継承することも難しくなりました。
血縁関係のない位牌を自分の家に持ち込むことはなく、継承者があらわれるまで空家となった故人の家に置いておきます。
アジカイグァンス(預かり位牌)の問題点
●アジカイグァンス(預かり位牌)の最大の問題点は、いつ元の家に継承者が現れるのかが分からない点です
一時期的に沖縄で、継承者が途絶えたトートーメーの種類が、アジカイグァンス(預かり位牌)とも言えます。
そのため裏返せば、いつまで預かれば良いのかが分からず「手放すにも手放せない」と悩んでいる家もあるでしょう。
・いつ継承者が現れるのか分からない
・処分しにくい
・空き家を維持しなければならない
なぜ「空き家を維持しなければならない」のかと言えば、血縁関係のないトートーメーを預かる時には、元の家で保管しながら、通いながらお世話をするためです。
けれども空き家問題自体が沖縄・国全体で深刻化しています。
築20年・30年と経つほど売却も困難になり、火事などの危険も増えるでしょう。
●そういった理由から、沖縄ではトートーメーの種類のなかでも、特にアジカイグァンス(預かり位牌)に対して、お焚き上げを行う人も増えています
(2)永代脇位牌
●永代脇位牌は、祖父や父方の兄弟のトートーメーを預かったものです
アジカイグァンス(預かり位牌)とは、父方の祖父や独身の兄弟など、父方の血筋を引き継いだトートーメーである点が違います。
ただし沖縄のトートーメーには「チョーデカサバイ(兄弟重なり)」と言うタブーがあり、同じ位牌立てに、兄弟を並べて祀ることができません。
・父方の血筋があるトートーメー
・祖父や父方の兄弟など
・祀る家の次男以降が継承する
・預かる家で祀ることができる
・本家トートーメーの左側に祀る
永代脇位牌の場合も預かっている位牌であることに代わりはないため、次の世代で次男以下に継承させましょう。
とは言え、①預かる家に持ち込む、②本家トートーメーの脇に祀ることから、アジカイグァンス(預かり位牌)ほど問題は深刻ではありません。
永代脇位牌の継承
●継承者のいない父方の兄弟を祀る永代脇位牌などの場合、本家トートーメーを長男が継承し、永代脇位牌は次男以降が継承します
そこで次男以下がいない場合は、どうなるのでしょうか。
次の次の世代、現れなければさらに次、目途が立たぬまま待ち続けるしかありません。
そうして祖父の代からなど、長い世代交代を経ても継承されずに残る、永代脇位牌も多いです。
永代脇位牌の問題点
●永代脇位牌が長い世代交代を経ることで、その永代脇位牌が、どういった繋がりを持つトートーメーなのか、由来があやふやになる家は少なくありません
なかには複数の永代脇位牌を抱え、整理がつかない状態になるものも増えました。
そこで「継承者が見つかる可能性の低い永代脇位牌を、永遠に祀り続けなければならないのか?」との相談が増えています。
(3)ヒジュルグァンス(冷たい位牌)
●ヒジュルグァンス(冷たい位牌)とは、お世話をする人がいない位牌です
まず、人は亡くなるとイフェー(位牌)が仕立てられますよね。
そしてそのイフェー(位牌)は祀る人がいることで成り立っています。
しかしどこにも身寄りのない、継承者がいないイフェー(位牌)は祀る人がいません。
・身寄りのない位牌
・お世話をする人がいない位牌
・継承者のいない位牌
・アジカイグァンス(預かり位牌)が放置された状態
・最も忌み嫌われている
沖縄で継承者のいないトートーメーの種類のなかでも、最も忌み嫌われる状態で、築年数の古い空き家などに残されたまま、放置されているヒジュルグァンス(冷たい位牌)なども見受けます。
沖縄でヒジュルグァンス(冷たい位牌)のようなトートーメーの種類は、「家から出してはならない」などとも言われますが、早急にお焚き上げなどをして処分をした方が、残された者も気持ちが落ち着くでしょう。
(4)サギブチダン(下げ位牌)
●サギブチダン(下げ位牌)の多くは、未婚のまま亡くなった娘や離婚など、イフェー(位牌)を実家で仕立てたものです
その昔は女性は婚家夫とともに祀られるとされ、実家に残った女性のイフェー(位牌)を、男性の血筋を重んじる沖縄では、本家トートーメーの種類と並べて祀ることをタブーとしました。
そのため「サギブチダン(下げ位牌)」と言いますが、現代の女性には、あまり良い風習である印象はありません。
※「サギブチダン」は沖縄の言葉で「下げ仏壇」で、仏壇から下げるイフェー(位牌)です。
・女性が生家で祀られたイフェー(位牌)
・台所に祀られる
・台所の西側・北側のいずれか
・小さな棚を仕立てて祀る
・トートーメーよりも小ぶりの仏具
現代では理解しがたい風習ですが、サギブチダン(下げ位牌)は昔の沖縄では、本家トートーメーの種類やアジカイグァンス(預かり位牌)よりも、小ぶりで粗末なもので整えたと言われます。
サギブチダン(下げ位牌)の背景
●沖縄の本家トートーメーの種類では、上段に家長(夫)の位牌札、その下に妻の位牌札が並びます
このように昔の沖縄では本来女性は、嫁ぎ先で一生を終え、夫とともに嫁ぎ先の祖先として祀られることが求められてきました。
・嫁ぎ先のトートーメーに祀られる
・離婚をしても、元婚家で祀られることもあった
・亡くなった後、結婚をして婚家で祀る(死後結婚)こともあった
…現代では驚く風習ではあるのですが、生家で娘のイフェー(位牌)を祀ることを、あまり良く思わない考え方があったため、台所に隠すようにそっと祀る「サギブチダン(下げ仏壇)」の習慣が産まれたようです。
(5)ウンヌグァンス(恩の位牌)
●「ウンヌグァンス(恩の位牌)」は、アジカイグァンス(預かり位牌)のなかでも、特に祖先や自身がお世話になった、沖縄トートーメーの種類です
血縁関係のない沖縄トートーメーを預かる種類、アジカイグァンス(預かり位牌)ではあるのですが、恩義に報いる形で祀る場合は「ウンヌグァンス(恩の位牌)」と言います。
・アジカイグァンス(預かり位牌)の一種
・祀る家とは血縁関係がない
・祖先や自身がお世話になった家の位牌
・故人の家に安置したままで祀る
・家から出すことができないとされる
こちらもアジカイグァンス(預かり位牌)であることは変わりないため、故人の家からイフェー(位牌)を出す、預かる者の家に持ち込むことがタブーです。
この点が問題が深刻化する要因で、なかには家屋が築40年・50年…と老朽化し、空き家として放置されている廃墟も見受けます。
継承者が現れないトートーメーを処分する
●預かったまま祀られているトートーメーは、沖縄の御願としての風習も含め、大まかに5つの選択肢で処分ができます
このように①処分するにもしきれない、②タブーがあるから無碍に扱えない、③タブーを犯すと祟りが起きるかもしれない、として悩む沖縄の人は多いです。
けれども、どのような沖縄トートーメーの種類も、手順を踏んで魂を抜き処分をすれば、長年抱えていた問題も解消できるでしょう。
[1]永代供養
・霊園や寺院で依頼[2]預ける
・位牌堂などに託す
(一定期間個別安置の後、永代供養が多い)
[3]お焚き上げ
①弔い上げ(読経供養など)
②寺院や神社へ依頼
[4]沖縄の御願
①ヌジファー(抜魂)の儀礼
②墓前で焚き上げる
[5]祖神として整える
①ウタナー(神棚)を仕立てる
②イフェー(位牌)を処理
③ウコールのみを祀る
※「永代供養(えいたいくよう)」とは、霊園など墓地管理者が家族に代わり、永代に渡って対象(位牌や遺骨など)を供養、管理することを差します。
現代の沖縄ではトートーメーを処分したい時、僧侶へ依頼して「閉眼供養(魂抜き)」の読経供養などを依頼する家が多いでしょう。
また沖縄の御願文化としては、ユタさんなどにヌジファー(抜魂)を依頼しますが、今は一般的ではありません。
・仏壇・仏具店
・霊園
…など
問題を放置し続けて次の代へ持ち越したり、より深刻にする前に、霊園や仏壇・仏具店などに相談すると安心です。
最後に
以上が、沖縄のトートーメー継承問題に繋がる預かり位牌の種類です。
ご先祖様を家を守護する「祖霊(カミ)」とする、祖霊信仰が深い沖縄では、故人を供養するお墓やトートーメー、お仏壇の扱いに慎重になってきました。
そのため沖縄ではトートーメーをいかなる種類のものであっても、タブーを犯さぬよう、そっと放置してきた側面もありますが、お墓事やお仏壇事を行う日取りにタブーが残る点も、処分や整理を進められない一因でしょう。
2023年はお墓事やお仏壇事を行うにあたり、日取りを気にせず進めやすい「ユンヂチ(閏月)」が訪れます。
・「ユンヂチ」とは?2023年1月22日~2024年2月9日が沖縄でお墓事に良い理由
まとめ
沖縄トートーメー、5つの種類とは
(1)アジカイグァンス(預かり位牌)
・継承者が途絶えた
・次の世代で継承者が現れる可能性
・引き取り手がいない
・血縁関係のない家が、一時的に預かっている
・元の家に残してお世話をする(2)永代脇位牌
・父方の血筋があるトートーメー
・祖父や父方の兄弟など
・祀る家の次男以降が継承する
・預かる家で祀ることができる
・本家トートーメーの左側に祀る(3)ヒジュルグァンス(冷たい位牌)
・身寄りのない位牌
・お世話をする人がいない位牌
・継承者のいない位牌
・アジカイグァンス(預かり位牌)が放置された状態
・最も忌み嫌われている(4)サギブチダン(下げ位牌)
・女性が生家で祀られたイフェー(位牌)
・台所に祀られる
・台所の西側・北側のいずれか
・小さな棚を仕立てて祀る
・トートーメーよりも小ぶりの仏具(5)ウンヌグァンス(恩の位牌)
・アジカイグァンス(預かり位牌)の一種
・祀る家とは血縁関係がない
・祖先や自身がお世話になった家の位牌
・故人の家に安置したままで祀る
・家から出すことができないとされる●解決方法
・永代供養
・預ける
・お焚き上げ「閉眼供養」
・沖縄の御願「ヌジファー(抜魂)」
・祖神としてウタナー(神棚)に整える