沖縄ではさまざまな仏壇トラブルがありますが、今回は関東出身の山本隆さん(仮名:56歳)と、沖縄出身の真奈美さん(仮名:48歳)が体験した、沖縄での仏壇トラブルです。
ご夫婦は東京で結婚後、真奈美さんの故郷である沖縄で暮らすようになりましたが、山本隆さんも長男で、お仏壇やお墓の継承問題は残したままでした。
・本州のお仏壇「宗派」とは?
・沖縄と本州のお仏壇を一緒にできない?
・両家とも継承したい場合、解決策はある?
今回は、関東出身の山本隆さんと沖縄出身の真奈美さんご夫婦が、両家とも沖縄でお仏壇を継承するため、トラブルが起きた体験談を、解決策とともにお伝えします。
実家の仏壇は真言宗
●山本隆さんの御実家は真言宗ですが、真奈美さんは沖縄の祖霊信仰に倣ったお仏壇です
山本隆さん(仮名:56歳)の御実家は菩提寺(檀那寺)があり、菩提寺は真言宗でした。
2年前に隆さんのご両親が亡くなり、菩提寺の寺院墓地に建つお墓に納骨されています。
納骨の席で設けた、親族との話し合いでは、下記の事柄が決まりました。
●祭祀継承者は隆さんに決定
①お墓は墓じまいをする
・取り出した遺骨は、菩提寺の合祀墓に埋葬
・菩提寺との関係は継続する
(隆さんが、毎年お布施をお渡しする)
・墓じまいの費用は親族で出し合う
②お仏壇は御位牌を隆さんが引き取る
・実家のお仏壇は仏壇じまいをする
・ご先祖様の御位牌は永代供養をする
(菩提寺の位牌塔で供養する)
・ご両親の御位牌は残す
(隆さんが御位牌を引き取る)
・仏壇じまいの費用は親族で出し合う
このように、関東で先祖代々墓やお仏壇のお世話をしていたご両親が亡くなり、継承者として隆さんが決まったものの、墓じまい・仏壇じまいにより、その責任は大きく軽減されました。
けれども家族や親族から「ご両親の御位牌は残したい」との声があったため、「沖縄の家の仏壇の隅に、両親の位牌も置けるだろう」と、気楽に引き受けたことが始まりです。
・沖縄で墓じまいや仏壇じまいをするには。手続きや費用の目安、個人墓地まで解説!
菩提寺のご住職から反対
●隆さんが菩提寺のご住職へ位牌のご相談をしたところ、「宗旨宗派の違う仏壇の合祀は現実的に難しい」と反対されてしまいます
「宗旨宗派」とは、キリスト教や神道、仏教などの「宗旨(しゅうし)」、また仏教であれば真言宗や浄土宗、天台宗、キリスト教であればプロテスタントやカトリックなどの「宗派(しゅうは)」です。
①真言宗
・ご本尊を最上位中央に祀る
・その脇に御位牌を祀る
・仏具の配置がある
②沖縄の祖霊信仰
・先祖代々位牌(トートーメー)が最上位中央に祀られる
・それ以外の御位牌は、脇位牌として隣に祀る
・仏具の配置がある
菩提寺のご住職のご説明では、仏教の宗派の違いでさえ、祀るご本尊や御位牌や仏具の配置、戒名まで違うため、ましてや宗旨の違う沖縄仏壇と合祀(一緒に祀り供養する)ことは、現実的ではない、とのことでした。
・「檀家制度」とは、「戒名」は必ず必要?菩提寺(檀那寺)との関係性
菩提寺によって考え方は違う
●全国的には宗派の違うお仏壇を統合・合祀した事例もあります
今回、隆さんが経験した沖縄での仏壇トラブル体験談では、実家の菩提寺が仏壇の合祀を反対しましたが、全国的には仏教宗派の違う仏壇同士を、統合・合祀した事例はありました。
●菩提寺がある場合、まずはご住職へ相談をする
①詳しく事情を話し「ご相談」する
②ご住職の容認の可否
③本人が菩提寺から…離檀するか、しないか
特に沖縄は檀家制度が根付いた地域ではなく、独自の祖霊信仰、御願文化を持つ地域です。
実際に沖縄の寺院でも、独自の祖霊信仰に基づいた御願の形式を受け入れる寺院もあれば、受け入れない寺院もあります。
菩提寺のご住職によって、それぞれ考え方が違うこともあるでしょう。
菩提寺から離檀する、と言う選択肢
●「離檀(りだん)」とは、代々家で信仰してきた特定の寺院「菩提寺(檀那寺)」から独立して、無宗教になることです
無宗教になった御位牌は扱いが自由になりますが、今度は沖縄の仏壇に、血縁関係の全くない、隆さんのご両親の御位牌が受け入れられるかどうか(受け入れられない可能性が高い)、と言う問題があるでしょう。
①本人にとっては
●メリット
・無宗教になる
・御位牌の扱いが自由になる
・毎年のお布施を支払う必要がない
●デメリット
・祭祀で困った時に頼れない
・他の親族との関係性も切れてしまう
・離檀料が必要
②菩提寺にとっては
・檀家が減ってしまう
今回、隆さんの体験談では離檀(りだん)の選択はなかったのですが、沖縄の仏壇トラブルなどで本州の菩提寺が関係した時、離檀(りだん)して無宗教になる人も見受けます。
ただし代々信仰してきた一族も多く、親族を巻き込みかねません。
また菩提寺のご住職としても、嬉しい申し入れではないので、祭祀継承自体を兄弟など、他者へ譲る方法が、より良いでしょう。
両家の仏壇を継承する解決策
●ひとつの家に小さな仏壇を二基用意する
そこで隆さんが菩提寺のご住職から提案された解決策が、「両家のお仏壇を二基並べる」と言うものでした。
離檀以外で宗旨宗派の違う両家二基の仏壇を継承する場合、前述した統合・合祀を併せて下記3つの解決策があります。
①並べて祀る…ひとつの家に仏壇を二基祀る
②統合する…両家いずれかの仏壇に片方を加えて供養
③合祀する…両家の新しい仏壇を一基仕立て、両家を合祀する
ただ今回隆さんの体験談のように、二基のお仏壇の統合や合祀の解決策は、菩提寺のご住職から反対を受けることも多いでしょう。
また沖縄の祖霊信仰においても、父方の血筋のみ、先祖代々位牌のトートーメーを単独で祀ることを重視しているので、統合や合祀は反対する親族も多く、なかなか現実的ではありません。
二基の仏壇は縁起が悪い?
●ひとつの家に二基の仏壇を祀ることは、縁起の悪いことではありません
しばしば「ひとつの家に二基の仏壇を仕立てるのは、縁起が悪いと聞いたが…」などの質問がありますが、これは間違えた言い伝えと言えるでしょう。
沖縄でもチャッシウシクミ(嫡男押し込み)として、代々長男がトートーメーを継承するにあたり、独身の次男が亡くなった家などでは、トートーメーを祀る仏壇の脇に、次男の御位牌を祀り、別の仏壇として供養してきました。
●そもそも仏教用語である「縁起(えんぎ)」の意味は、「吉凶の前兆」であり、「○○をしたから吉凶が起きる」と言う意味ではありません。
仏教用語において「縁起(えんぎ)」とは、すべての現象・存在はそれ単体で起きているのではなく、無数の条件や相互に関係し合った「御縁」によって起きている、と言う意味合いです。
・沖縄のトートーメーには種類がある?永代脇位牌やアジカイグァンス(預かり位牌)とは?
コンパクトな仏壇を二基並べる
●そこで沖縄の家に帰った隆さんは、沖縄の仏壇を「仏壇じまい」して、コンパクトな仏壇を二基並べて祀りました
「仏壇じまい」とは、仏壇の閉眼供養をして撤去・処分することを差します。
本来は魂が込められた御位牌まで処分する流れが多いですが、今回、山本さんご夫婦の目的は仏壇交換ですので、古いお仏壇のみ撤去して、トートーメーは残しました。
①沖縄の家の仏壇を「仏壇じまい」
・先祖代々位牌のトートーメーは残す
②コンパクトな仏壇を二基、購入
・隆さんが継承した、御位牌を祀る(真言宗)
・真奈美さんが継承した、御位牌を祀る(祖霊信仰)
③二基の仏壇を「開眼供養」
「開眼供養(かいげんくよう)」とは、お仏壇や御位牌、お墓や遺影・遺骨などに魂を入れる儀礼を差し、この他にも「性根入れ」などの呼び名があります。
・開眼供養・閉眼供養とは、いつ行うの?しないとだめ?進め方やお布施、お供え物まで解説
古いお仏壇の処分
●古いお仏壇の処分は、一般的に仏壇仏具店に相談します
今回の山本隆さんご夫婦のように、新しい仏壇へ交換するならば、新しい仏壇を購入した仏壇仏具店で、古い仏壇を引き取ってくれる業者が多いです。
●僧侶による閉眼供養後の引き取りで、約3万円~10万円ほど
(仏壇の大きさ・移動距離などにより、費用幅あり)
①仏壇の交換…仏壇を購入した、仏壇仏具店
・新旧仏壇の前で開眼供養・閉眼供養
・古い仏壇の引き取り
②仏壇じまい…仏壇を回収してくれる仏壇仏具店
・古い仏壇の前で閉眼供養
・古い仏壇の引き取り
またお仏壇を交換せず、閉眼供養をしてお仏壇を閉じる「仏壇じまい」でも、大きな仏壇仏具店であれば、古いお仏壇を引き取ってくれるでしょう。
真奈美さん家のトートーメーを永代供養
●今回の出来事をきっかけに、妻・真奈美さんが継承した先祖代々位牌トートーメーは、永代供養にしました
夫の隆さんが実家の御位牌を継承したことをきっかけに、妻の真奈美さんは、すでに継承していたトートーメーの永代供養に踏み切ります。
ただご両親のみカライフェー(唐位牌)に御霊を移しました。
【仏壇仏具店】
①両親連名のカライフェー(唐位牌)を用意
②コンパクトな仏壇を購入
③仏具を購入
【位牌堂がある霊園】
④位牌堂へ永代供養
⑤カライフェー(唐位牌)の開眼供養
【自宅】
⑥古い沖縄仏壇の閉眼供養
⑦古い沖縄仏壇の引き取り
「カライフェー(唐位牌)」とは、宮古島など離島地域で扱われる御位牌で、個人やご夫婦などを祀る、単体の御位牌です。
沖縄では先祖代々の位牌札を祀るトートーメーが一般的ですが、全国的にも多く扱われています。
・現代の沖縄で増えるタブーなきトートーメーの種類☆ムリなく供養できるイフェーの祀り方
今回掛かった費用の内訳
●上置き型仏壇を二基購入しましたが、コンパクトなモダン仏壇だったため、合計約59万円で収まりました
もともと大きめの沖縄仏壇が置いてあったため、それなりのスペースはありましたが、仏壇が二基となると圧迫感があるため、できるだけカジュアルでコンパクトな、モダン仏壇を選びました。
真奈美さんが継承したトートーメーを永代供養して、カライフェー(唐位牌)にしたのには、このコンパクトなモダン仏壇に合わせるためでもあります。
①真奈美さんが継承したトートーメー
・古いトートーメーの永代供養…約3万円
・カライフェー(唐位牌)…約4万円(名入れ)
・上置き型仏壇…約18万円
・仏具セット…約5万円
・開眼供養…約3万円
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小計 約33万円
②隆さんが継承した御位牌
・上置き仏壇…約18万円
・仏具セット…約5万円
・開眼供養…約3万円
————————————–
小計 約26万円
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合計 約59万円
隆さんが実家で行った、墓じまいや仏壇じまいに関しては、隆さん方の親族でお金を出し合い進めたため、今回の費用には含まれていません。
それでも大きなお仏壇であれば100万以上は掛かる想定だったため、コンパクトなモダン仏壇を選んで「二基を購入しても、安く収まった…」との感想です。
最後に
以上が、関東出身の山本隆さん(仮名:56歳)と、沖縄出身の真奈美さん(仮名:48歳)の沖縄で起きた仏壇トラブルと解決策です。
ただここで、本州出身の人々から「隆さんが沖縄でお仏壇の開眼供養をした時、開眼供養は真言宗だったの?」などの質問がありました。
隆さんは実家に帰省している期間に、菩提寺のご住職にご相談をしたところ、沖縄の真言宗の寺院を紹介していただいたため、こちらのご住職へ依頼しています。
同じように本州に菩提寺があり、菩提寺のご住職が沖縄の寺院を紹介いただけなかった場合には、その宗派の総本山へご相談したり、ネット(HP)などで同じ宗派の寺院を探すことも良いでしょう。
まとめ
夫婦で実家の祭祀継承者になった体験談
●夫のご両親が亡くなり、祭祀継承者へ
(夫は関東出身で、菩提寺は真言宗)
・墓じまい
・仏壇じまい
・両親の御位牌のみ継承
・離檀はしない●沖縄仏壇への合祀を反対される
・真言宗ご住職による反対
・祀り方、ご本尊などが全く違う
(仏壇の合祀は現実的ではない)●二基の仏壇を並べて供養
・ひとつの家に二基の仏壇は縁起悪いものではない
・コンパクトなモダン仏壇で圧迫感をなくす
・古い仏壇の引き取りは仏壇仏具店へ依頼●妻が継承したトートーメーを永代供養
・霊園の供養塔で永代供養
・両親の御位牌のみ残す
・単独位牌のカライフェー(唐位牌)で残す●仏壇二基を準備して、合計約59万円