1年を通して日取りを気にせずに、お墓事やお仏壇事ができる沖縄のユンヂチでは、この機会に墓じまいや仏壇じまいを進める人が増えました。
背景にはお墓やトートーメー(先祖代々位牌)の適切な継承者がいない、そして生前に気になることを解消する「終活」の広がりがあるでしょう。
・お墓の管理をする親族が減った
・高齢になりお墓の掃除やお参りが大変
・継承者が他県で働いている
今回は、亡き夫に代わり個人墓地に建つ門中墓の墓主だったものの、協力してくれる親族も減り、維持管理が大変になった母親とともに、ユンヂチをきっかけに墓じまい・仏壇じまいを行った、玉城たか子さん(51歳・仮名)の体験談をお伝えします。
夫亡き後、墓主になった母親
●母親は、夫亡き後に継承者が見つからず「長男が地元に戻ってくるまで」と、墓主になりました
20年前に小さいながら地元に建つ門中墓の墓主だった夫が亡くなり、お墓の継承者を親族間で検討しましたが、遠方に住んでいるなどの事情で、適切な継承者が見つかりません。
たか子さんの兄である義男さん(56歳・仮名)が継承者になる予定でしたが、大阪で就職していました。
●そこで親族からの提案により、いずれは地元へ帰ると思われていた長男に代わり、たか子さんの母親である朋子さん(81歳・仮名)が、「一時期的に」墓主になります。
…けれども朋子さんが門中墓を継承して20年、長男の義男さんは大阪でバリバリ働き、地元に帰ることはありませんでした。
そうなると「やはり遠方からお墓の維持管理を行うことは困難」と朋子さんは案じ、墓主としてお墓の維持管理を務めたまま現在に至ります。
高齢により親族が少なくなる
●当初は親族が協力してお墓を維持してきましたが、ひとり、またひとりと少なくなります
門中墓がある地元に残っている親族は皆高齢で、若い世代は大学や就職をきっかけに本州に出る、忙しくてお墓の世話ができない、など、協力体制や模合制度はほとんど崩壊しました。
そのなかで高齢の母親がひとりで門中墓の管理をしたり、旧暦行事やスーコー(焼香)の施主として立ち回ることは、体力的・経済的に大きなムリが生じます。
頼みの綱は長男でしたが、いつしか長男も本州で家族を作っていたため、沖縄に帰る可能性は少ないでしょう。
お墓の劣化と個人墓地の問題
●昔から建つ玉城家の門中墓はコンクリート造で、お墓も辺境にあり、掃除を定期的に行わないことで、劣化が激しくなります
模合制度が崩壊したことで数年に一度は必要な門中墓の修理修繕もできなくなり、一気にシミが増え古びた状態になっています。
また、夏に充分な雑草摘みができなかったために、もともと辺境にあった玉城家のお墓は、より人が立ち入れないようなうっそうとした状態になりました。
親族が少ないシーミー(清明祭)
●また地元の親族が高齢で亡くなり、地元に住む孫世代が少なくなったことで、シーミー(清明祭)も、日ごろ集まる数家族です
また、若い時代はそれほど大変ではないエリアながら、比較的辺境にある玉城家の門中墓は、高齢になった朋子さんにとって、現地へ参ることもひと苦労でした。
●そこで2020年のシーミー(清明祭)の場で、母親の負担を案じたたか子さんが、親族へ交通の便が良い民間霊園への遺骨の引っ越し「改葬(かいそう)」を提案します。
…たか子さんが事前に調べていた民間霊園は、公共設備は整っていて常にキレイです。
さらに小さな区画が定められているので、個人墓地のように管理が大変ではありません。
親族間の問題
最後に親族で話し合ったシーミー(清明祭)の席では、いくつかの問題も生じます。
高齢になった親族も、朋子さんの墓主としての負担は感じていたのですが、下記のような懸念点が提示されました。
[1]新しいお墓を建てる予算が充分ではない!
…すでに親族の多くが独立し、模合で集まるお墓の修理修繕費用などに限りがあります。[2]遺骨は移動すべきではない!
…その昔にいた家付きのユタさんから、「遺骨を移動してはいけない」と言われていた親族は、いたずらに遺骨を移動することを忌むものとして嫌がっていました。
その昔、家に付いていたユタさんのお話では、「遺骨から魂がこぼれ降りて地面に定着しているため、遺骨を他所へ移動できない」とのことです。
新しいお墓を建てる予算が充分ではない!
●予算が充分ではない玉城家の門中墓では、「墓じまい」を選びます
また朋子さんの今までの負担を考慮し、民間霊園への改葬後は「朋子さんに墓主としての責任や心配事を残したくない」と言うたか子さんの想いもありました。
・お墓の維持管理の苦労を掛けたくない
・年間管理料などの経済的負担を継続したくない
・継承者は現状、いない
…このようなことから、門中墓としてお墓を建てるのではなく、取り出した遺骨を合祀墓に埋葬する方向へ、親族で決めます。
[2]遺骨は移動すべきではない!
●ユンヂチに墓じまいを実行すること、読経供養をすることで納得してもらいました
高齢の親族ですから、ベストは当時の家付きのユタが除霊をする流れなのでしょうが、ご本人はもういません。
かと言って、高齢の朋子さんおひとりにお墓の負担を背負わせることは現実的ではなく、下記2点で納得してもらいます。
・神様の目が届かない「ユンヂチ」に済ませる
・僧侶へ読経供養をしてもらう
これはシーミー(清明祭)の時間内に解決したのではなく、後日民間霊園を見学に訪れた際に、不安を残していた親族に同行してもらい、民間霊園の管理会社スタッフとともに解決しました。
お墓の内部調査
●改葬の予算を大まかに知るため、改葬先の民間霊園へ相談し、お墓の内部調査を依頼します
シーミー(清明祭)で話し合った結果、新しくお墓を建てずに、遺骨は合祀墓に合祀埋葬することにしました。
ただ合祀墓の場合はお墓と違い1柱ごとに料金が掛かるため、古い門中墓に遺骨が何柱あるのかは、重要な数字です。
・カロートの底が土になっていた
・骨壺に入った遺骨は3柱
・骨壺には風葬時代の遺骨が?
内部調査の結果、近年納骨されたであろう遺骨が5柱、それ以前の遺骨は、底が土になっているカロートに骨壺から取り出して埋葬されていたであろうことが分かります。
ただ一点、古い大きな骨壺があり、業者によると「古い風葬時代の遺骨なのでは?」とのことでした。
風葬時代の遺骨も残っていたが…
●焼骨されていない骨壺を発見し、焼骨します
古い大きな骨壺の中身を確認したところ、やはり焼骨していない風葬時代の遺骨でした。
そこで改めて焼骨をしていただき、現代の遺骨の形にします。
改めて骨壺の納めた後、他の遺骨とともに合祀墓に合祀埋葬を依頼しました。
まとめて合祀墓で永代供養
●合祀墓の料金は10万円/1柱、4柱を合祀するので40万円です
ただ墓じまいには墓石の撤去や解体作業もあるため、それだけ費用が掛かります。
今回は取り出した遺骨の一部を焼骨しましたから、火葬費用も掛かるでしょう。
・墓石の解体費用…約15万円
・墓石の処分費用…約15万円
・遺骨の取り出し(4柱)…約12万円(約3万円/1柱)
・遺骨の火葬(1柱)…約1.5万円
・遺骨の永代供養(4柱)…約40万円
・読経供養…約3万円
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合計…約86.5万円
朋子さん一人で以上の経済的負担を掛けることは無理がありますが、今回は「最後だから」と、集まった親族で折半して費用を出し合います。
・隆さん(長男)…30万円
・裕子さん(次女)…15万円
・伯母の長男…15万円
・伯母の長女…15万円
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合計…約95万円
結果的にユンヂチに墓じまいを進めるに当たり、予算を超えた集金ができたため、並行して「ユンヂチだから」と仏壇じまいも進めます。
旧盆やスーコーの施主も辞めよう
●旧盆やスーコー(焼香)も区切りを付けようと、ユンヂチを機に仏壇じまいもしました
シーミー(清明祭)同様、ムートゥーヤー(宗家・本家)であったたか子さんの実家には、かつては旧盆になると大勢の親族が集まっていました。
祖母や母、妹とともにたか子さんも家を出るまでは、ご馳走を用意し振る舞い、旧盆のお仏壇飾りを整えていましたが、「これも現状では朋子さんの負担になるのでは?」と考えます。
●仏壇じまいの手順は下記です。
①仏壇の閉眼供養…約3万円
②仏壇の撤去…約5千円
③トートーメー(位牌)の永代供養…約5万円
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合計…約8万5千円
遺骨の合祀を依頼した民間霊園では、位牌堂があったため、霊園で相談したところ、仏壇を回収してくれる仏壇・仏具店も紹介してくれました。
閉眼供養は墓じまいで依頼した僧侶へ依頼しています。
特に菩提寺もなかったため、こちらも民間霊園から紹介いただいた僧侶派遣で依頼し、一律で3万円/1回の読経供養でした。
トートーメー(位牌)の永代供養
●民間霊園の位牌堂に、位牌の永代供養を依頼します
先祖代々伝わるトートーメー(位牌)は、約5万円/1体が位牌堂で永代供養できました。
ただ、夫の位牌札だけは残したいと感じた朋子さんは、トートーメー(位牌)の永代供養に当たり、夫の位牌札のみを引き取ります。
夫の位牌のみを残して…
●ユンヂチに墓じまい・仏壇じまいをした後、朋子さんは夫の位牌を仕立て直します
現在、朋子さんは夫の位牌を仕立て直して、出窓に写真とともに飾っています。
生前から利用していたお茶碗やお椀を利用して供えていましたが、「返って寂しい気持ちになる」として、仏具を揃えることにしました。
・可愛い仏具を購入…約3.5万円
・小さなステージを購入…約1.2万円
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合計…約4.7万円
朋子さんは、ユンヂチをきっかけに墓じまい費用を、子ども達や姪っ子さん達に出し合ってもらったので、その分余裕が出たお金で賄うことができたそうです。
毎日、夫を偲び供養しながら、施主や墓主としての責任から解放され、のんびりと暮らしています。
最後に
いかがでしたでしょうか、今回、ユンヂチの墓じまいを機に、大阪に住む長男(隆さん)やたか子さんも、父親の位牌を仕立て、リビング脇に祀っています。
このユンヂチの墓じまいをきっかけに、母親の負担を考え、旧盆やお彼岸などの年中行事を取りやめてはいるものの、それぞれの家で祀られた位牌を前に、日々偲んでいるそうです。
また遺骨の合祀墓での永代供養をきっかけに、スーコー(焼香)の弔い上げを行い、今後の法要をやめています。
●ただ母親の朋子さんからは「親族が集まる場だったのに、良かったのかしら…」との声があり、残った親族でグループラインを設けることにしました
母親にスマホを購入しラインの使い方を教えたところイキイキと使用し、最近では「年末年始の挨拶スタンプ頂戴!」と言うほどです。
グループラインで示し合わせ「年末年始などに集まる機会が、返って増えたような気がします」と、たか子さんからの後日談でした。
・【仏壇じまいの体験談①】娘の位牌はご先祖様と別に供養したい。仏壇じまいで喪失感が癒える
まとめ
ユンヂチの墓じまい・仏壇じまいの体験談
・亡き父の代わりに墓主になった母親
・長男が沖縄に帰るまで、一時期的な墓主だった
・長男が大阪で結婚、暮らしが落ち着いた
・門中墓を管理する親族が高齢で少なくなる
・母親も80を過ぎ、お墓の維持管理が困難に
・シーミー(清明祭)で墓じまいの話し合い
・親族の心配も、ユンヂチで切り抜けることができた●合祀墓のある民間霊園へ相談
・お墓の内部調査
・お墓の閉眼供養
・遺骨の取り出し
・1柱の遺骨が風葬時代のもの
・風葬時代の遺骨を火葬
・取り出した遺骨(4柱)を合祀墓へ納骨
・費用は集まった親族で出し合う●墓じまいとともに仏壇じまい
・仏壇の閉眼供養
・仏壇仏具店で仏壇の回収
・トートーメー(位牌)も永代供養
・父親の位牌札のみ残す●父親の位牌を仕立てる
・父親個人のカライフェー(唐位牌)を仕立てる
・仏具を揃える
・出窓に祀り、日々偲ぶ