金田真紀さん(43歳会社員:仮名)は、中学2年生の長女と小学3年生の子どもがいるひとり親、先日大腸癌が発見されたことをきっかけに、終活を始めました。
・治療中の生活費や医療費はどうする?
・入院したら、子どもの預け先は?
・ひとり親が亡くなったら、生活費はどうなる?
・ひとり親が亡くなったら、誰が育てる?
・ひとり親の終活で欠かせないことは?
今回は、金田真紀子さん(43歳会社員:仮名)が、中学生と小学生のひとり親で育てるなか癌が発覚し、治療中の生活費や医療費の問題を解決、自分亡き後の子ども達の養育や生活費、終活までを整えた体験談を、身近でサポートした立場からお伝えします。
治療中の生活費・医療費は?
●病院のがん相談支援センターでソーシャルワーカーに相談しながら、ひとり親支援制度や、会社の有給休暇制度、健康保険組合の高額療養費制度などを賢く利用します
現実的にひとり親家庭では、それほど生活費に余裕のない世帯が多く、真紀さんのケースでも、癌が発覚してから「保険に入っておけばよかった!」と後悔する声は多いです。
けれども保険は毎月高い出費ですし、将来的に癌になるとも限りません。
ですから、まだ間に合う人は保険に入ると安心ですが、すでにひとり親で癌が発覚したならば、自分を責めたり後悔する前に、今から補填できる方法を検討しましょう。
(1)ソーシャルワーカーに相談
(2)ひとり親家庭等医療費助成制度…自治体
(3)母子福祉資金貸付金…自治体
(4)傷病手当金の給付…健康保険(会社員/公務員)
(5)高額療養費制度…病院の窓口
(6)会社の休暇制度…勤めている会社で相談
ひとり親で癌発覚後、生活費や医療費に不安があれば、ひとり親家庭を支援する公益財団法人もあります。
※[公益財団法人]沖縄県母子寡婦福祉連合会
(1)ソーシャルワーカーに相談
●「ソーシャルワーカー」とは、医療・介護・福祉・教育など、あらゆる専門分野の相談を受け付けてくれる総合窓口の総称です
ひとり親で癌が発覚した時にソーシャルワーカーに相談できる窓口は、病院のがん相談支援センターがあります。
「がん相談支援センター」とは、全国のがん診療連携拠点となってる病院、地域がん診療病院などに設置された機関で、癌治療や療養生活など、直接的な相談ばかりではなく、癌治療にあたり心配な、お金・仕事・家族の相談も可能です。
●地域がん診療連携拠点病院
・那覇市立病院…[TEL]098-884-5111
・沖縄県立中部病院…[TEL]098-973-4111●地域がん診療病院
・北部地区医師会病院…[TEL]0980-54-1111
・沖縄県立八重山病院…[TEL]0980-87-5557
・沖縄県立宮古病院…[TEL]0980-72-3151
●都道府県がん診療連携拠点病院
・琉球大学病院…[TEL]098-895-1507
真紀子さんも含め、ひとり親で癌が発覚したケースでは、「子どもに話して良いか分からない」などの悩みも多いです。
今回はひとり親で癌が発覚した時の医療費や子どもの預け先など、生活に関する相談窓口としてご紹介しましたが、家族や医療者との関わり、自身の不安や精神状態についても相談できます。
子どもに渡す「お母さんが倒れたら」
●小学生の子どもがいるひとり親で癌が発覚したら、「もしも」の時の対応をメモして、子どもと共有しておくと安心です
特にひとり親であれば癌が発覚しても、すぐに子どもに伝えるべきか…、年齢によっては伝え方を迷ううちに、月日ばかりが過ぎてしまうケースがあります。
だからこそまず、「もしもお母さんが倒れたら、何をするか」緊急時にやることリストを、子どもが分かりやすいように書き起こし、共有しておきましょう。
(1)親が倒れた時の緊急連絡先
・祖父母
・近所のママ友
・かかりつけ医(確認が取れていれば)(2)救急車の呼び方
・パスワードの解除方法
・携帯電話の操作方法
(3)基本情報
・氏名
・住所
・電話番号
・生年月日
・(親の)血液型
(4)緊急連絡先(連絡して欲しいところ)
・親兄弟
・かかりつけ医
(5)子どもへのメッセージ
「だいじょうぶ!
いきをはいて~、すって~、
ゆっくりと、おおきなこえで、ハッキリ、はなそう!」
ひらがなを使い、分かりやすく書くことが大切です。
また子どもに、自分が癌であることを伝えなくても良いので、「お母さんが倒れたらリスト」を見ながら、2人でシュミレーションをする方法も良いでしょう。
いつ何が起きるかは分かりません。
そのため壁など、子どもが分かりやすい場所に貼っておくことをおすすめします。
子どもの預け先はどうする?
●身内に預け先がない場合、自治体の児童施設や、民間の支援団体が運営する施設などが利用できます
ひとり親で癌が発覚した場合、日常生活を送りながら通院して治療を続ける希望が多いですが、終末期になると在宅医療が実現したとしても、元気な頃のように動くことはできません。
真紀子さんも両親が高齢で遠方に住んでいたため、気軽に預ける状況ではないこと、さらになかなか癌の発見を両親(子どもの祖父母)に伝えることが出来なかったと言います。
祖父母や離婚してひとり親になった家庭では、元配偶者など、入院中に頼れる人がいない場合には、一般的には自治体の児童施設で保護されます。
ただひとり親支援団体などに相談すると、他の選択肢も見つかるかもしれません。
※祖父母や元配偶者など、子どもを託せる身内がいない場合には、元気なうちに児童施設を見学し、自分の目で確認することも、安心できる要素となるでしょう。
ひとり親が死んだら、子どもの生活費は?
●生命保険を掛けていなくとも、子どもは遺族年金を受け取ることができます
保険料の納付に特別な問題さえなければ、基本的に遺族基礎年金を受け取ることができますし、会社員であれば厚生年金に加入している人がほとんどなので、遺族厚生年金の受給も可能です。
(1)遺族年金
・遺族基礎年金
・遺族厚生年金(2)児童手当
・小学生まで1.5万円/月
・中学生以降1万円/月
(3)生命保険(加入していた場合)
※この他、元配偶者からの養育費など
「遺族基礎年金」は死亡月の翌々月までの1年間、もしくは年金加入期間の2/3以上を納めていた人、または保険料が免除されている人に限ります。
「遺族厚生年金」は亡くなった人(今回はひとり親)が、死亡月に厚生年金に加入している場合です。
遺族年金と児童手当で生活費を補填できるの?
●住む場所があり、贅沢をしなければ生活できる金額も期待できます
遺族年金は残された子どもの人数により年金額が変わり、遺族厚生年金は亡くなった人(今回はひとり親)が、生前に受け取っていた年収により金額が変わるでしょう。
<ひとり親に癌が発覚:遺族基礎年金> | |||
[子どもの人数] | [基本額] | [加算額] | [合計遺族基礎年金額] |
1人 | 78万0,100円 | 78万0,100円 | |
2人 | 78万0,100円 | 22万4,500円 | 100万4,600円 |
3人 | 78万0,100円 | 22万4,500円+7万4,800円 | 107万9,400円 |
真紀子さんの場合、中学生と小学生の子ども2人がいますから、年間100万4,600円の遺族年金額がもらえるとして、毎月約8万3,700円は受給できる計算です。
<ひとり親に癌が発覚:遺族厚生年金> | ||||
月収 | 20万円 | 30万円 | 40万円 | 50万円 |
年間支給額 | 約26万円 (約2万1,600円) |
約39万円 (約3万2,500円) |
約52万円 (約4万3,300円) |
約65万円 (約5万4,100円) |
遺族厚生年金を計算する留意点として、ボーナスなどの賞与も含めた月収で計算します。
真紀子さんは約25万円/月、夏と冬のボーナスそれぞれ約40万円/1回の収入があったので年収380万円、月収に換算すると約31万6,000円/月です。
●想定される月々の生活費は下記です。(1)遺族基礎年金…約8万3,700円
(2)遺族厚生年金…約3万2,500円
(3)子ども手当
・小学生1人…1万5,000円
・中学生1人…1万円
—————————–
合計…約141,200円
ゆとりある生活費としては充分とは言えませんが、住む場所さえあれば、生活に困窮する金額ではありません。
この他、保険や元配偶者からの養育費などで調整します。
ひとり親が死んだら、子どもの財産管理は?
●遺言書で子どもの養育を託す①未成年後見人を指定するとともに、信頼できる人へ財産を託す②家族信託の管理者を明記すると安心です
「未成年後見人」とは親権者亡き後、18歳未満の未成年者を保護する目的で、親権者代理の役割です。
遺言書がなければ家庭裁判所で選任されますが、親権者は遺言書で子どもを託す未成年後見人を指定することができます。
(1)未成年後見人
(2)家族信託
一方、「家族信託」は財産管理を信頼できる人へ託す制度です。
銀行や弁護士へ財産を託す方法もありますが、その分費用が掛かるため、一般的には自分の死後、信頼できる人へ子どもへと移る財産を託す人が多いでしょう。
・【沖縄の終活相談①】「未成年後見人」とは?小学生の子どもがいるひとり親、親権の終活
「家族信託」が役立つ理由
●未成年後見人は必ず指定した人になる訳ではありません
また養育者と財産管理者を分けることで、より子どもの保護に信頼がおけます。
「未成年後見人」は最終的に家庭裁判所が選任するため、必ず遺言書で指定した人物が選任される訳ではありません。
●未成年後見人は…、
・必ず指定した人が選任される訳ではない
・子どもの財産も管理できる
・一度選任されると、解任や辞任は難しい
また未成年後見人は親と同等の権利を持つため、未成年後見人は子どもの財産の使い方も任せることになります。
真紀子さんのケースでは、子ども達の養育者である未成年後見人は両親を指定したものの、高齢だったために、家族信託の管理者(財産管理)を姉に託しました。
・受託者…財産を預ける人(ひとり親)
・受益者…利益を得る人(子ども)
・管理者…財産を管理する人(依頼された人)
そのため財産管理に不安があるならば、金銭管理面で信頼のおける人に子どもの財産を託す「家族信託」の管理者も明記すると良いでしょう。
子どもと関わる人々へ「心」を託す
●ひとり親は「おひとりさま終活+α」の感覚です
…幼い子どもに死後の手続きに関する負担を掛けないよう、生前契約を済ませながら、少しでも温かな気持ちが我が子に向けられるよう、誠意を以って大人の人々に礼を尽くします。
「見返りを求めるようで恐縮する」と言う人もいますが、多くの大人が親心を持っているでしょう。
ひとり親が癌になった時、生前に終活を進めることで、親の死後、臨終確認やエンゼルケア、葬儀や納骨などのセレモニー、死後事務手続きで出会うスタッフを通して、少しでも我が子に温かなまなざしが向けられることが期待できます。
(1)両親
(2)近所のママ友
(3)地域の人々
(4)ひとり親支援団体
(5)習い事の先生など(6)医療関係者
・かかりつけ医
・訪問看護師など(7)死後事務委任契約
・葬儀社スタッフ
・お墓やお仏壇の契約
真紀さんは闘病の合間に葬儀社を探し、葬儀社に「おひとりさま終活」の相談をして終活セミナーまで出たそうです。
終活セミナーで出会った高齢の仲間に「まだ若いからいいんじゃない?」などと言われるほど、元気そうに見えたんだと話していました。
ここで、ひとり親の真紀さんが癌発覚後、6ヶ月間おひとりさま終活を行った結果に何が起きたのか…、「近所のママ友」だった体験談をお伝えします。
かかりつけ医、看護師まで残る臨終の夜
●かかりつけ医が駆け付けた時刻は18時、真紀さんから離れない下の子とともに、御前1時まで、かかりつけ医や訪問看護師が残っていました
かかりつけ医の先生は、到着した瞬間に真紀さんがすでに亡くなっていると分かったそうですが、小学3年生の息子が寄り添う横で、臨終の確認が取れなかったと言います。
訪問看護師がかかりつけ医のお医者様を促し、臨終の確認が取れました。
お姉ちゃん:「うん…」
訪問看護師さん:「お母さん、温かいでしょう?」
お姉ちゃん:「『ママ』ね…」
そんな会話が聞こえてきました。
お姉ちゃんは、お母さんの終活の様子を見ていたためか、どこか落ち着いています。
弟:「………、これ?」
訪問看護師さん:「そうそう…(お化粧を施す)、…綺麗になった?」
弟:「うーん、可愛くなった」
ひとり親だった真紀さんは、癌が発覚してから自治会や隣近所とのコミュニケーションを密にして、「頭が膝につくのではないか?」と思うほど頭を下げていました。
●「『徳を積むと子どもや孫を守る』って言うじゃない?今更だけど、急いで徳を積まなくちゃ!」と言っていた真紀さんを思い出します
そのためか、前述した「お母さんが倒れたらリスト」を見て真紀さんのお姉ちゃんが自治会長さんへ電話を掛けた後、真紀さんが臨終の夜は、自治会長さんや婦人会の会長さん、近隣のママ友達が深夜まで集まりました。
●小学3年生の息子君にずっと寄り添う婦人会の会長さんの姿が、今も心に残ります
子どもに残す、ひとり親の終活
●「エンディングノート」とは、死後の諸手続きや葬儀、葬送など、自分の終末や死後について記載したノートです
遺言書との大きな違いは、法的効力があるかないか、でしょう。
ひとり親で癌が発覚した真紀子さんのケースでは、未成年後見人の指定を遺言書で残す必要もあったため、遺言書(公正証書遺言)とエンディングノートの双方を残しました。
(1)連絡して欲しい人のリスト
・連絡先
・関係性(2)個人情報
・生年月日
・血液型
・職場
・電話番号
(3)財産について
・銀行口座(暗証番号)
・投資関係(ID/パスワード)
・遺産の使用方法(希望)
(4)デジタル情報
・サービス利用状況(ID/パスワード)
・ブログなど利用状況
・スマホ情報(ロック解除方法)
(5)子どもについて
・誰に託すか(未成年後見人)
・子どもの生活費(家族信託)
※生前からそれぞれに相談しておきます。
(6)死後の手続きについて
・死後の諸手続きの託し先(死後事務委任契約)
・遺言書の存在(公正証書遺言が良い)
(7)葬儀について
・葬儀の希望(家族葬など)
・葬送の希望(お墓など)
・遺影の希望
・棺に入れるものがあれば記載
(8)メッセージ
・子ども達
・子どもの養育を託す人々
・子どもの周辺の人々
・大切な人
ひとり親の終活では、自分亡き後、子ども達に余計な負担を掛けないようにと、予め葬儀やお墓などの生前契約を済ませる親も多いです。
葬儀やお墓などの生前契約があるならば、その存在と担当者を、エンディングノートに記しておくと良いでしょう。
最後に
以上がひとり親で癌が発覚し、闘病のなか6ヶ月を掛けて終活を進めた金田真紀子さん(43歳会社員:仮名)の体験談です。
真紀子さんは、生前動けるギリギリまで子ども達に少しでも負担を掛けないよう、終活を進めてきましたが、最終的にはメッセージを残すことを重視しました。
子ども達へのメッセージはもちろんのこと、何よりも学校の先生や習い事の先生、自治会や近所の人々、そしてママ友まで、「どうぞ温かなまなざしを向けてください。」「見守ってください。」と長い手紙を託しています。
そして最後の日まで、神様ご先祖様へ手を合わせていました。
この想いはきっと、子ども達を守り、健やかな人生へと導くことでしょう。
まとめ
ひとり親の終活体験談
●治療中の生活費や医療費はどうする?
・ソーシャルワーカーに相談
・ひとり親家庭等医療費助成制度…自治体
・母子福祉資金貸付金…自治体
・傷病手当金の給付…健康保険(会社員/公務員)
・高額療養費制度…病院の窓口
・会社の休暇制度…勤めている会社で相談●入院したら、子どもの預け先は?
①ソーシャルワーカーに相談
・自治体の施設
②ひとり親支援団体などに相談
・那覇市母子生活支援センター
・[公益財団法人]沖縄県母子寡婦福祉連合会●生活費はどうなる?
・遺族基礎年金
・遺族厚生年金
・子ども手当●誰が育てる?
・未成年後見人の指定
・家族信託(子どもの財産管理)●エンディングノートに記すこと
・連絡して欲しい人のリスト
・個人情報
・財産について
・デジタル情報
・子どもについて
・死後の手続きについて
・葬儀について
・メッセージ