子どもがいない夫婦の、老後に向けた終活相談が増えています。
子どもがいないDINKs世帯の割合は、1997年3.7%から2015年には6.2%、わずか20年弱で1.5%も増えている計算です。
・子どもがいない夫婦の老後リスクは?
・配偶者が亡くなった時の相続は?
・おひとりさまの終末期をどうする?
今回は、山本正樹さん(63歳会社員:仮名)亜子さん(60歳会社員:仮名)の、子どもがない夫婦の終活相談事例を解説します。
子どもがいない夫婦の終活、3つのポイント
●子どもがいない夫婦の終活では、いずれは片方が「おひとりさま」になる想定がポイントです
そのため現実的なことですが、最終的には終活を通しておひとりさまの終末期の託し先を整えておくことが求められます。
また子どものいない夫婦が終活を通して驚く事柄が、相続の複雑さです。
(1)老後のライフプランをどうするか
(2)お互いが亡くなった時の相続対策
(3)終末期を誰に託すか
とは言え、子どものいない夫婦だからこそ、終活を通して充実した夫婦の時間を過ごしたいですよね。
・老後夫婦2人暮らしの平均的な生活費…約25.5万円/月
・老後夫婦2人暮らしのゆとりある生活費…約34.9万円/月
2020年(令和2年)の総務省統計局によると、65歳以上の夫婦2人暮らし世帯における生活費の平均が約25.5万円/月です。
対してゆとりある定年退職後の生活費は約34.9万円/月でした。
(生命保険文化センター「生命保証に関する調査」(2016年度)の調査結果より)
(1)老後のライフプランをどうするか
●子どもがいない夫婦の終活では、まず夫婦で暮らす老後のライフプランを決めます
子どもがいない夫婦の場合、終活で相談が多いのが金銭面です。
現代は子どもがいてもいなくても、老後の資金への不安は絶えませんが、特に片方が介護状態になった時に子どもなどのサポートがいないため、金銭的にも盤石な老後のライフプランは精神的な安定にもつながります。
①どこで暮らすか
・現役時代の住まい
・実家に帰る
・移住など②いつまで働くか
・60歳で繰り上げ年金
・65歳の定年まで働く
・ずっと働く方法を見つける③老後資金をどのように貯蓄するか
・iDeCo
・つみたてNISA
・個人年金保険
・財形年金保険
子どもがいない夫婦の終活でメリットを挙げるならば、子どもがいないため、不測の出費が少ない点です。
そこで現役時代から計画的に老後資金を貯蓄し、介護問題が発生しがちな70歳以降に向け、金銭面の準備を進めると良いでしょう。
①どこで暮らすか
●子どもがいない夫婦2人暮らしでは、「どこで暮らすか」によってライフプランが大きく変わります
山本正樹さん(63歳会社員:仮名)亜子さん(60歳会社員:仮名)ご夫婦は、正樹さんが60歳になり定年退職を迎えたことをきっかけに、今まで住んでいたタワーマンションから、終の棲家を探すことにしました。
<子どもがいない夫婦の終活:どこで暮らすか> | |||
●山本さんご夫婦の選択 | |||
[選択肢] | [メリット] | [デメリット] | |
(A) | 都会の住まい | ・住み慣れている ・商業施設が近い ・仕事を継続できる ・引っ越しの手間暇がない |
・物価が高い ・階段などが多い ・車や自転車が多い |
(B) | 実家に帰る | ・家賃が掛からない ・親族がいる |
・維持費が掛かる ・家の老朽化 ・仕事を変える必要性 |
(C) | 移住など | ・新しい暮らし ・今の状況に合った住まい |
・周辺に知人がいない ・引っ越しの手間暇 |
山本さんご夫婦のケースでは、実家が築30年を迎え空き家だった時期も長く老朽化が酷かったため、二束三文ではあったものの売却をした後、新しい家に移住しました。
新しい住居はシニア向け分譲マンションで、高齢者が生活しやすいバリアフリー設計です。
隣接した公園がありペットも可、公園ではシニアサークルが毎週イベントをしています。
②いつまで働くか
●子どもがいない夫婦の終活では、いかに老後資金を貯めておくかも大きなポイントです
そこで老後の働き方は、できる限り長く働く「WPP」を老後のライフプランに選ぶ夫婦が多くいます。
現役時代には夫婦共働きで経済的余裕がある、子どもがいない夫婦の終活では、「○○万円貯めたから60歳で引退しても安心ですか?」などの相談も多いのですが、子どもがいないからこそ、不測の介護問題リスクに備えると考えてください。
・Work longer…長く働く
・Private pension…私的年金による中継ぎ
・Public pension…公的年金
特に山本さんご夫婦の場合、終の棲家として選んだシニア向け分譲マンションでは、入居資格が要介護2まで、要介護3以上の認定を受けた場合には、相応の対策をしなければなりません。
また、山本さんご夫婦が選んだシニア向け分譲マンションは、サービスや設備が充実している一方、月額利用料も別途15万円/月が掛かりました。
・【定年後の沖縄暮らし】WPPとは?老後の生活費の不安に備える方法とは
③老後資金をどのように貯蓄するか
●子どもがいない夫婦2人の終活では、まず生活費を見直して定期的な貯蓄を確保します
子どもがいない夫婦だからこそ、優雅な暮らしになれて出費も大きくなりがちです。
若いうちはそれでも良いのですが、老後の夫婦2人暮らしは収支バランスが取れた、安定した貯蓄計画が欠かせません。
<子どもがいない夫婦の終活:どのように貯蓄するか> | |||
[選択肢] | [メリット] | [デメリット] | |
(A) | iDeCo | ・運用益が非課税 ・年金受給では一定額まで非課税 ・所得控除が全額可能 ・少額から可能 |
・60歳まで解約不可 ・受給額は変動 |
(B) | つみたてNISA | ・運用益が20年間非課税 ・少額投資でリスクが低い |
・非課税投資枠が少額 (33,333円/月まで) ・元本割れの可能性 ・商品が限られる ・損益通算・繰り越し控除は不可 |
(C) | 個人年金保険 | ・個人年金保険料控除 ・死亡保障 ・定額型/変動型の選択可 |
・途中解約は元本割れの可能性 |
(D) | 財形年金保険 | ・利息や配当金が非課税 ・低リスク |
・利息が少ない ・会社の退職により強制解約 |
…大まかにですが、老後資金で代表的な4つの貯蓄方法について、それぞれメリット・デメリットをまとめてみました。
いずれにしても現在の生活費を見直して、いずれかの方法で毎月定期的に貯蓄を続ける習慣が、後々老後の暮らしに役立ってくるでしょう。
・【沖縄で老後資金計画】老後資金を作る☆NISAとiDeCoどっちがいい?
(2)お互いが亡くなった時の相続対策
●複雑な相続になりがちな子どもがいない夫婦こそ、終活で遺言書を準備して簡略化しましょう
子どもがいない夫婦は終活において「配偶者しかいないから、相続対策は必要ない!」と勘違いをしてしまいがちですが、法廷相続人は配偶者だけではありません。
●誰が相続人になるのか?●配偶者
[第2順位]直系尊属(故人の両親、祖父母など)
[第3順位]兄弟姉妹(義理の兄弟姉妹も含む)
[第4順位]甥・姪(代襲相続)
子どもがいる相続では配偶者の次に[第1順位]として直系卑属、つまり子どもや孫がはいりますが、山本さんご夫婦には子どもがいませんから、直系卑属に該当する相続人がいません。
また終活ではご両親や祖父母はすでに他界していることが多く、山本さんご夫婦の事例でも同じです。
●相続発生後、想定していない相続人が現れるケースは多くあります
子どものいない夫婦の終活では、法廷相続人同士の相続トラブルと言うよりも、相続発生後に、以前に全く関わりのない相続人が現れて、そもそもコミュニケーションが難しい、などの相談があります。
例えば、すでに亡くなった兄弟姉妹や義理の兄弟姉妹の子ども(甥や姪)による代襲相続などです。
けれども遺産分割協議書を作成して相続を終結させるには、相続人全員が協力しなければなりません。
遺言書を書いて遺産分割を省略する
●遺言書を書くことで、遺産分割協議手順のスキップが可能です
特に子どもがいない夫婦が終活を進める場合、被相続人(故人)の兄弟姉妹である[第3順位]は、法廷相続人にはあたりますが、法律で守られた遺産「遺留分」はありません。
・遺産分割協議をスキップできる
・遺言書の遺産配分がそのまま適用される
遺留分がないため、遺言書で指定した遺産分割内容を不服として申し立てる「遺留分減殺請求」の心配もなくなります。
「配偶者が全財産を相続する」と記載して問題はありません。
・夫婦でお互いに遺言書を書く
・公正証書遺言を残す
遺言書には手軽な①自筆証書遺言と、遺言書の存在は証明されるものの内容を隠した②秘密証書遺言、公証役場にて内容も存在も証明されている③公正証書遺言があります。
なかでも③公正証書遺言は、作成時に手間や費用は掛かるものの、最も確実に執行される遺言書ですので、配偶者がひとり残される相続にはおすすめです。
・【沖縄の終活】遺言に有効な種類とは☆3つの遺言メリットとデメリット
山本さん夫婦の場合
●子どもがいない夫婦の終活では、それぞれが先立った場合を想定して、法廷相続人を確認しておくと良いでしょう
上記「法廷相続人は誰がなるのか」を読むと分かりますが、先立った故人の兄弟姉妹が関係してくるため、お互いが先立ったケースをそれぞれ想定して終活を進めます。
[夫方]
・両親、祖父母は亡くなっている
・弟が2人、妹が1人(逝去)
・妹の息子(夫の甥)が2人→法廷相続人
・亜子さん(配偶者)
・弟が2人(法廷相続人)
・甥が2人(代襲相続人)
————————
相続人は計5人[妻方]
・両親、祖父母は亡くなっている
・ひとりっ子
————————
相続人は計1人(夫の正樹さん)
…このように子どもがいない夫婦の終活の場合、それぞれの兄弟姉妹や甥・姪の状況などで相続人が変わってきますので、予め元気なうちに相続人を調べて想定しておくと良いでしょう。
・【沖縄のおひとりさま終活】相続人になる人と優先順位を知っておく
(3)終末期を誰に託すか
●死後事務委任契約、老人ホームへの入居などの選択が多いです
子どもがいない高齢夫婦の終活では、先立った時には残された配偶者もお互いに高齢であるケースが多くを占めます。
配偶者が亡くなり自分がおひとりさまになった時、また配偶者が亡くなってショックを受け、死後の手続きが困難なケースでも、サポートを期待できる子どもがいなくとも、一切の手続きを任せることが可能です。
(A)死後事務委任契約
●死後の手続きを託す契約
・葬儀
・納骨
・遺品整理
・相続手続き
…など(B)老人ホームへの入居
●看取りの対応を確認
・特養
・介護サービス
…など
老人ホームの場合は、施設によって看取りやその後の手続き対応はさまざまですので、入居前に細かく確認をしてください。
なかにはおひとりさまの老人ホーム入居にあたり、契約時に死後事務委任契約を結ぶ施設もあります。
また近年では、おひとりさま対応の老人ホームとして、高額ですが共同墓付きの老人ホームや、「サ高住」と呼ばれるサービス付き高齢者向け住宅などもあるでしょう。
・【沖縄のおひとりさま老後】孤独死は避けたい!自分でできる8つの対策とは
最後に
以上が子どもがいない夫婦の終活について、主に山本正樹さん(63歳会社員:仮名)亜子さん(60歳会社員:仮名)のケースを事例としてお伝えしました。
山本さんご夫婦はシニア向け分譲マンションを終の棲家として選びましたが、配偶者が亡くなりおひとりさまになった高齢者の終活事例では、看取り対応もできる自立型の老人ホームは人気です。
ただ介護のプロに老後を託せる老人ホームは安心ですが、それだけ費用も掛かります。
(下記は一例です。)
・28万円/月の入居費用
・75歳~86歳まで入居(11年間)
・28万円/月×12か月×11年間=3,696万円
現実的には3,696万円全てではなく、1/2以上は年金によって支払うことができましたが、それでも安心できる老後を考慮した時に、少しずつでもお金を貯蓄しておくと、役立つでしょう。
・【定年後の沖縄暮らし】老後2000万円問題に勝つ!からくりと50代から5つの対策
まとめ
子どもがいない夫婦が終活をするポイント
●3つのポイント
(1)老後のライフプラン
①どこで暮らすか
・現役時代の住まい
・実家に帰る
・移住など②いつまで働くか
・60歳で繰り上げ年金
・65歳の定年まで働く
・ずっと働く方法を見つける③老後資金をどのように貯蓄するか
・iDeCo
・つみたてNISA
・個人年金保険
・財形年金保険(2)お互いが亡くなった時の相続対策
・相続人を調べておく
・夫婦それぞれで相続人は変わる
・兄弟姉妹や甥姪も相続人になる●遺言書をお互いに作る
・兄弟姉妹には遺留分がない
・公正証書遺言で残す(3)終末期を誰に託すか
・死後事務委任契約
・看取り対応の老人ホーム