コロナ禍のなか、沖縄では手元供養を選ぶ方々が増えていますよね。その背景には葬儀後すぐに納骨式を行う風習がある他、年中行事以外ではお墓参りがタブー視されていることもあるでしょう。
沖縄では四十九日までナンカスーコー(周忌焼香)など法要が建て続くため、気が張って気付かない方もいます。
そして日が経つごとに大切な家族を失ったことを暮らしのなかで実感し、喪失感に苛まれたまま、どうしたら日常に戻れるのか…、戸惑う相談も多いです。
今回は、気付かなかった喪失感(グリーフ)に気付き、沖縄で手元供養を選択したことで、グリーフケアを通して乗り越えた体験談を、具体的な費用とともにお伝えします。
グリーフケアが必要だと知る

明夫さん(53歳)は愛子さん(48歳)、成人した子ども2人、高校生の子ども1人の5人家族です。ある日妻の愛子さん(48歳)にすい臓がんが発覚し、間もなく亡くなってしまいます。
ただ、葬儀や法要の日程が過ぎると、元気に出社し、仕事中は愛子さんのことも忘れて仕事に集中していました。そして高校生の末っ子がいたため、帰宅すると家事がありましたし、ぽっかりと空いた時間はゲームをする…、と言った日常です。
家族を失った哀しみは、一般的には喪失感や絶望感、寂しさなど感情から自覚をするものですが、明夫(仮名)さんの場合は感情面に変化がない点が特徴的でした。
けれども3ヶ月を過ぎた頃から、次第に体調不良が現れ、病院に行くものの原因は見つからない日々が続きました。
【 沖縄で手元供養。現れた体の症状 】
● 明夫さんを襲った体の症状は、下記のようなものです。これだけの症状が出ていながら、どの病院へ行ってもこれと言った病気は発見できません。
・頭痛
・吐き気(しばしば嘔吐)
・胃がむかむかする
・動悸
※ また不思議なことに背中の痛みで夜も眠れない症状が起き、しばしば睡眠障害を起こすようになります。
背中の痛みによる睡眠障害で、何とか眠りに就こうとお酒にも頼るようになりました。以前は休肝日としてお酒を飲まない曜日を設けていましたが、毎日お酒が止まらなくなります。
…かと言って悪酔いをしたり、仕事を空けるまでにはならないのですが、同居している高校生の息子が「アルコール依存症になるのでは?」と心配したことで、心療内科を受けることになりました。
グリーフケアで哀しみを乗り越える3つのポイント

明夫さんが心療内科を受診すると、自律神経失調症による体の不調だと診断されます。明夫さん自身は自覚はしていなかったものの、うつ症状が起きていたのです。
そこで、沖縄の自宅へ手元供養により愛子さんの遺骨を迎えることにしました。その理由には、「グリーフケアで哀しみを乗り越える3つの方法」があります。
【 沖縄で手元供養。グリーフケア3つの方法 】
● グリーフケアにより哀しみを乗り越えるには、日常的なアプローチが必要です。
(1) 喪失感に向き合う
… 明夫さんは愛子さんを亡くした後、哀しみから逃げるように仕事に集中していて、止まることができなくなっていました。明夫さん自身が、哀しみのなかにいることを認めないまま、「元気なフリ」をしていたことになります。
(2) 故人への気持ちを声に出す
… 喪失感に向き合う役割も果たしますが、誰か・何かに話して声に出すことで、頭のなかに抑え込まれ、さまざまに絡み合った感情を整理することが可能です。
(3) お別れの儀式を行う
… 哀しみと向き合い落ち着いてきた段階で、改めてセレモニーなどの儀式を行うのも良いでしょう。儀式(セレモニー)には故人を想う人々が集まり、感情を出し合えますし、儀式(セレモニー)のなかであれば、感情を出し切ることも可能です。
明夫さんが沖縄で手元供養を決める前、愛子さんの遺骨は門中墓の「シルヒラシ(※)」にありました。
大きな門中墓でしたので、中心の門中墓に埋葬するまでの期間、手前の「シルヒラシ」に収蔵されているそうです。(毎年10月頃にお墓が開き、その時に正式に納骨される風習となります。)
(※)シルヒラシとは、本来沖縄のお墓のなかで「新人」の遺骨を安置する場所です。今回の体験談では門中墓とは別の場所に納骨されていますが、多くの沖縄のお墓では、入り口近くをシルヒラシと言います。
門中墓からパートナーの遺骨を取り出す

※明夫さんの門中墓の手前にあるシルヒラシ
沖縄で埋葬後に手元供養をしようとすると、門中墓の多くが、他の門中一族の遺骨とともに合祀埋葬(一緒に埋葬)されることが多いため、一度納骨式を済ませてしまうと、後から一柱の遺骨だけを取り出すことはできません。
けれども幸い明夫さんのケースでは、門中墓の扉が開くまで、手前の「シルヒラシ」と呼ばれる祠に収蔵されていましたので、沖縄の自宅で手元供養を進めるために、急いで改葬(遺骨の引っ越し)を行うことを決めました。
【 沖縄で手元供養。パートナーの遺骨を取り出す 】
● 遺骨を取り出すに当たり、お墓の状態によっては石材業者に依頼して墓石の移動をしてもらいます(費用目安:5万円~)が、明夫さんの事例では自分達で扉を開きました。
→ ただ愛子さんの遺骨を収蔵していたため、魂を移す儀式(抜魂=ヌジファー)とともに、近所の寺院へ依頼をして閉眼供養をしてもらっています。
・閉眼供養(お布施)… 3万円
お布施の3万円は僧侶から明確な金額を提示された訳ではなく、明夫さんが決めた金額です。沖縄で閉眼供養の相場を調べたところ、3万円~5万円だったので、(祠に一柱と言うことで)3万円と決めました。
分骨をして永代供養墓に埋葬

続いて沖縄の自宅に手元供養を行うに当たり、少しだけ遺骨を残して、残りの遺骨を永代供養墓(※2)に埋葬することに決めます。
…と言うのも、遺骨を取り出すに当たり手続き上は「埋葬先(遺骨の引っ越し先)」の「受入証明」を求められた(※3)こと、そして沖縄の自宅で手元供養をするには、少しの遺骨で充分だったためです。
(※2)永代供養墓とは、家族や子孫に代わり、墓地管理者が永代に渡って供養・管理をしてくれるサービスが付いたお墓です。そのため継承者が必要ありません。
ただし、一定年数が過ぎると他の遺骨とともに合祀埋葬され、合祀供養に移ります。(ただ無縁仏になる心配がありません。)
(※3)受入証明については別記事「沖縄で納骨した遺骨を手元供養にしたい!遺骨を取り出す改葬手続きとは」をご参照ください。
【 沖縄で手元供養。永代供養墓に埋葬 】
● いくつかの永代供養墓を見学した後、後々まで手厚い法要が期待できるのでは…と考え、寺院の永代供養を選択しました。
→ 納骨堂では約25万円~、集合墓では約50万円ほど~や約75万円ほど~のものなどもありましたが、約98万円の永代使用料(年間維持費1万1千円)の寺院墓所、琉球語廟(りゅうきゅうごびょう)を選んでいます。
寺院墓地で環境が気に入った他、那覇市に住む明夫さんにとっては、後々車の運転免許を返納しても通いやすい那覇市内と言うことも、選択の決め手だったそうです。
残りの遺骨を粉骨、沖縄の自宅で手元供養に

いよいよ残りの遺骨を沖縄の自宅で手元供養に迎え入れます。残りの遺骨は粉骨をして、さらにコンパクトに収まるようにしました。
粉骨費用は3万円も掛からず、送骨でもできるとのことでしたが、明夫さんは息子さんと現場まで持ち込んで粉骨をしてもらっています。
【 沖縄の手元供養。自宅に迎え入れ 】
● 定年を見越して小さな分譲マンションに引っ越していたため、大きなお仏壇を入れるには充分なスペースがなく、コンパクトな沖縄の手元供養用仏壇を仕立てました。
・ミニ仏壇…5万円
・仏具セット…2万円
→ お倫や灰、お線香など、細かなものまで揃えて10万円で仕立てることができています。
門中墓では頻繁にお墓参りはできません。けれども沖縄で手元供養を整えた後、明夫さんは日常のなかで毎日愛子さんに手を合わせ、日々の出来事を話すことで、哀しみが温かな思い出に代わるのを実感しています。
また寺院墓地に永代供養を決めたことで、お墓にも頻繁にお参りができ、さらに僧侶様とのご縁が生まれて、心の支えにもなっているそうです。
いかがでしたでしょうか、今回は沖縄で手元供養を通して、配偶者を亡くした喪失感や哀しみを乗り越えた、明夫さん(仮名)の体験談をお伝えしました。
今回、明夫さんご家族は思いがけず門中墓から独立することになり、今後は終活を通して永代供養付きの夫婦墓を検討しているそうです。
また明夫さんの体に起きた症状「背中の痛み」は、生前に愛子さんが訴えていた症状だと気付きました。故人への哀しみから、無意識に愛子さんの痛みを追想していたことになります。
このような症状もグリーフケアにはあるそうです。何の原因もなく体の不調が治らない時、一度グリーフ(喪失の哀しみ)についても振り返ってみてはいかがでしょうか。
※ グリーフケアについては、重なる部分もありますが、別記事「沖縄で喪失を乗り越えるグリーフケア☆無意識に訪れる症状と乗り越え方」でもお伝えしますので、コチラも併せてご参照ください。
また、配偶者へのグリーフケアの体験談は他にもあります。「沖縄で手元供養により家族の死を受け入れた体験談。この症状はあなたのせいじゃない」
まとめ
手元供養を通したグリーフケアの体験談
・門中墓のシルヒラシに遺骨を収蔵
・感情的に哀しみはなかったが体の不調が頻発
・病院に行っても不調の原因が分からない
・心療内科で自律神経失調症と診断
・シルヒラシより遺骨を取り出す
・分骨して寺院の合祀墓に埋葬
・残りを手元供養にして毎日手を合わせる
・お墓にもお仏壇にも日々手を合わせることができるように