沖縄の先祖代々位牌「トートーメー」とは?そもそも家を守護する「祖霊信仰」ってなに?

2023.01.05
沖縄の先祖代々位牌「トートーメー」とは?そもそも家を守護する「祖霊信仰」ってなに?

沖縄でトートーメーとは先祖代々位牌であり、ご先祖様を祀る祖霊信仰のシンボルです。そのため沖縄独自の祖霊信仰を「トートーメー信仰」とも言います。今回は、沖縄に根付くトートーメー信仰(祖霊信仰)とはなにか?仕組みや問題点、歴史を解説します。

沖縄でトートーメーとは先祖代々位牌であり、ご先祖様を祀る祖霊信仰のシンボルです。
そのため沖縄ではしばしば、独自の祖霊信仰を「トートーメー信仰」とも言います。

・トートーメーとは?
・祖霊信仰とは?
・トートーメーがカミ(神)になるとは?
・タブーが恐れられる理由とは?
・トートーメーの歴史

今回は、沖縄に根付くトートーメー信仰(祖霊信仰)とはなにか?を詳しく解説します。

沖縄のトートーメー信仰とは

【沖縄のトートーメー問題】人々が「祟り」を恐れる理由
●沖縄の「トートーメー信仰」とは、ご先祖様が家の守り神となって、クワッゥマガー(子孫)を守ってくださると言う信仰です

沖縄のトートーメー信仰が理解できる特徴として、本州とのお仏壇の配置の違いがあるでしょう。
本州ではご本尊を中心にして、その脇に位牌を祀りますが、沖縄ではトートーメー自体がお仏壇の中心に祀っています。

<沖縄のトートーメー信仰とは>
●祖霊信仰のシンボル
・その家を守護するパーソナルな神様
お仏壇の中心に祀られる
・家では代々、嫡男が継承してきた

また沖縄のトートーメーを理解するには、沖縄の言葉で「トートーメー」の意味合いを理解すると良いでしょう。
特に「物」としてのイフェー(位牌)との違いが分かると、その尊さが理解しやすいです。

・トートーメー…尊い君(あなた)
・イフェー…位牌

このように沖縄ではトートーメーは、お仏壇の中心に祀られる家を守護する「尊い君」、つまり神様であり、本州でのご本尊や海外での神様に近い位置で祀られ、供養されます。

そこで家を守護する沖縄のトートーメー信仰は、沖縄の門中(むんちゅう)組織も大きく影響しているでしょう。

沖縄の「門中(むんちゅう)」とは

●沖縄の「門中(むんちゅう)」とは、父方の血族で集まる集団です

本州では親族でお墓を建てますが、沖縄では「門中墓(むんちゅうばか)」の単位でお墓を建ててきたように、父方の血族の繁栄を重要視します。

そこで門中を継承するに当たり、父方の血族を守る文化が生まれてきました。
そのため沖縄のトートーメーには、祀り方に大きな特徴があります。

<沖縄のトートーメーとは:祀り方>
●代々嫡男夫婦が祀られる
上部に嫡男の名前を書いた位牌札
下部に妻の名前を書いた位牌札

沖縄のトートーメーは上下3代分、5代分、7代分…、と大きさがさまざまありますが、横並びにこの位牌札が並び祀られるのが特徴です。

●ちなみに今でこそ戒名を授かる沖縄の人々は多いですが、沖縄は独自の信仰の元で供養してきましたから、位牌札に書く故人の名前も、生きていた頃の俗名でした

そのためその昔の沖縄では、独身や離婚して生家に帰ってきた娘が亡くなり祀る場合や、独身の次男以降が亡くなり生家で祀る場合には、先祖代々位牌のトートーメーには入らず、別にイフェー(位牌)を仕立てなければなりません。

※沖縄で次男以降や娘のイフェー(位牌)については、下記をご参照ください。
沖縄のトートーメーには種類がある?永代脇位牌やアジカイグァンス(預かり位牌)とは?

 

沖縄でトートーメーの継承問題が起きる理由

●沖縄のトートーメー信仰は、門中を守る守護神として祀るため、継承者や扱い方にさまざまなタブーが敷かれてきました

その昔の沖縄ではトートーメーを継承するとは家督を引き継ぐことです。
そのため他家の者が家を乗っ取ったり、兄弟同士で争いが起きぬよう、沖縄では厳しいトートーメーの継承タブーがあります。

<沖縄のトートーメーとは:継承問題>
●けれども昔と現代でズレが生じたことが遠因です。
家督は継承しない(相続は法の元で平等に分配)
・継承者は負担が大きい
高齢化による影響

例え、他の相続人が同意して家督を継ぐと言われても、高齢化により親が亡くなる頃には、子どもも40代50代になっている家は多く、マイホームを建てて立派に自立しているでしょう。

「今さら築年数30年以上の実家を独り占めできると言われても…。」と、負の財産になってしまっているのが、現代の現状です。
沖縄のトートーメー継承問題は、全国的なお墓の継承問題に似ています

※沖縄に今も残る、トートーメータブーについては下記をご参照ください。
沖縄のトートーメーでは4つのタブーが継承問題に繋がっている!問題を解決する方法は?

 

沖縄のトートーメー信仰で、「カミ(神)」とは?

沖縄でトートーメーって何者?
●沖縄のトートーメー信仰で言われる「カミ(神)」とは、亡くなってから七代を過ぎ、「個」が亡くなったご先祖様です

沖縄ではトートーメーにお名前が記載されたご先祖様は、七代目にしてその家(ヤー)を守る守護神「カミ(神)」となると信じられてきました。

そこで「カミ(神)とはどのような存在か?」と尋ねられると、キリスト教など他宗教に見る「神様」でもなければ、仏教に見る「仏様」でもありません。カタカナの「カミ」です。

<沖縄のトートーメーとは:祖霊信仰>
●若い世代に押し出され、位牌札から名前が無くなると「カミ(神)」になります。
トートーメー(ご先祖様)…名前や個性がある(我がある)
カミ(神/祖霊)…名前や個性がない(我がない)

沖縄ではトートーメーから名前が外される七代目以降、生きし頃の名前や役割、存在としての「我」を失くして「カミ(神)」となる仕組みです。

●我のないカミ(神)は家(ヤー)の守護神ですが、単体ではなく祖霊の一部になります

全国的にも三十三周忌法要を境界としていますが、沖縄でもこの七代目までの期間として三十三年忌を目安とし、三十三年で清められ、この世の「我」が全て取り除かれるとされてきました。

ですから仏様や神様、沖縄で信仰される御嶽(うたき=自然神)の神々様とも、全く性質の異なる存在です。

※沖縄では弔い上げの際、位牌札の名前を削り、墓前でお焚き上げをしてきました。
沖縄に伝わる、古いトートーメー(位牌)の処分☆自分達で行うお焚き上げの仕方

 

カミ(神)になるとウタナー(神棚)へ

●沖縄のムートゥーヤー(宗家/本家)では、カミ(神)はウタナー(神棚)に祀られます

沖縄の「ウタナー(神棚)」は、名前のまま神様を祀るための棚を差し、イチミ(生きる身)の頭よりも高い位置を目安に小さな棚が設けられ、ウコール(香炉)のみを置くものが多いです。

<沖縄のトートーメーとは:カミ(神)の依り代>
トートーメー(お仏壇)…位牌札にマブイ(魂)が宿る
ウタナー(神棚)…ウコール(香炉)の灰に宿る

沖縄ではヒヌカン(火の神)もウコール(香炉)を重要視するように、ウコール(香炉)の灰を大切にしてきました。

現代のウコール(香炉)

●ただ現代の沖縄では火事の危険性などを考慮して、ウコール(香炉)の灰や、カミ(神)の依り代を変えるウタナー(神棚)も増えました

ウタナー(神棚)のウコール(香炉)は大きなものでした。
けれども夫婦共働き分譲住宅が増えるなか、①スペースが不十分、②火事の危険性が高いなどの理由で、ウタナー(神棚)の形が変化しつつあります。

<沖縄のトートーメーとは:変化するウタナー(神棚)>
[1]名前を記載しないイフェー(位牌)を祀る
[2]灰にさざれ石を代用

現代の沖縄では、ウタナー(神棚)だけではなくお仏壇もコンパクトになり、大きさに合わせたウコール(香炉)も小さく割れやすいです。

そのため、あまりに火が多いと周辺に燃え移る危険性が高いため、マブイ(魂)が宿るとされる石(さざれ石)をウコール(香炉)に敷いて、日本線香を一本ずつ供える拝み方が増えました。

[1]名前を記載しないイフェー(位牌)を祀る

●ウタナー(神棚)のウコール(香炉)ではなく、シンボルとしてのイフェー(位牌)を祀ります

ただカミ(神)に我がないので、名前や戒名などは記載しません

「帰眞霊位」のみを刻む
何も彫刻しない

本来、沖縄のトートーメー(位牌)は帰眞霊位を中心に故人の名前を記載します。
けれどもカミ(神)は我のない存在の集合体ですので、中央の「帰眞霊位」のみを刻んで拝む考え方です。

そしてこの形は、実は昔から石垣島など一部地域で伝わる方法でもあります。

[2]灰にさざれ石を代用

●ウタナー(神棚)のウコール(香炉)に、灰の代わりにさざれ石を入れます

沖縄では霊石を祀る「ビジュル(霊石)」信仰があることはご存じでしょうか。
沖縄のウガンジュ(拝所)には、石のみの御嶽(うたき)があるように、石にも霊魂が宿る(霊石)と信じられてきました。

トートーメー祀られなかったマブイ(魂)は…

【沖縄のトートーメー】イフェー(位牌)の文字入れ☆「掘り」と「書き」の違い
●沖縄ではトートーメーに祀られなかった霊魂は、フラフラと行き場を失い、浮遊霊になると言われます

特に一定の想いを残すとマブイ(魂)を土地に残す(落とす)と言われるようになりました。
これは追善供養のフソク(不足)も同じで、充分な追善供養ができていないと、故人のマブイ(魂)は土地に残ると言われたりします。

そのため沖縄の人々はトートーメーを通して、ウグァンブスク(御願不足)のない丁寧な追善供養を続けるようになりました。
ただ、地域によって沖縄ではトートーメーに祀られないマブイ(魂)もあります。

<沖縄のトートーメーとは:祀られないマブイ(魂)>
[1]七歳以下の子ども
[2]生家で亡くなった女性

沖縄のトートーメーは、後々そのヤー(家)を永代に渡り守るカミ(神)となるマブイ(魂)を祀りますから、将来的に継承者のいないマブイ(魂)を祀ることはなかったのかもしれません。
けれども現代の暮らしや価値観に合っていないことも確かで、気にせず祀る家がほとんどです。

ただ古い家や地域によって、子どもや娘をお仏壇に祀るために、門中から独立した体験談もあります。

[1]七歳以下の子ども

●昔の沖縄では「七歳以下は神の子」とされ、トートーメーに祀らない地域がありました

昔の沖縄では、七歳までこの世よりも後生(あの世)に近いと考えられたためです。

七歳まではトートーメーを祀らない
・門中墓に納骨せず、小さな祠を建てる

なかには三歳までとする地域もあり、沖縄でトートーメーに祀られない門中や地域では、門中墓にも納骨することができずに、敷地内に小さな祠を建てる門中もありました。

ただ現代の暮らしに合わないため、子どもも納骨できるようになったり、なかには子どもを供養するために門中から独立する事例もあります。

[2]独身のまま亡くなった女性

●女性を生家で祀る場合、沖縄ではトートーメーに名前を連ねず、新しく仕立てて台所に祀る風習がありました

正確には台所にそっと祀る「サギブチダン(下げ位牌/仏壇)」です。
女性は婚家で妻として、夫の下に名前を連ねる習わしがあったためですが、女性をタチクチ(元祖)とするイナグァンス(女元祖)のトートーメーもあります。

沖縄でトートーメータブーが恐れられる理由とは

沖縄でトートーメータブーが恐れられる理由とは
●沖縄ではトートーメーに祀られた、ご先祖様のマブイ(魂)はイチミ(生身)の人生をも変えるとされます

沖縄では「マブイ(魂)でイチミ(生身)の人生、出来事を変えることができる」と信じられてきました。

そのため供養されていないマブイ(魂)は、この世に生きている者の人生を、たやすく動かすとも信じられ、本州ではにわかに伝わるほどの「祟り」も、沖縄では現実味を帯びてきます。

<沖縄のトートーメーとは:マブイ(魂)が出来事を変える>
●ウグァンブスク(御願不足)
充分に供養や御願(拝み)ができていない
順番や方法が間違えている
想いが届いていない

ただ現代の人々が冷静に考えると、ウグァンブスク(御願不足)により起きた「イチミ(生身)の人生の変化」は、人生における一般的な困難のひとつとも言えるでしょう。

ウグァンブスク(御願不足)で起きること

●ウグァンブスク(御願不足)が起きると、ご先祖様はその家に警告として、悪い事柄「シラシ(お知らせ)」を起こします

沖縄でトートーメーから「シラシ(お知らせ)」を受けた人々は、「ブスク(不足)」を補い、必要があれば「シジタダシ(筋正し)」を行わなければなりません。

<沖縄のトートーメーとは:シラシ(お知らせ)>
・病気
収入の減少(昔は収穫)
・商い事の不調(商売を営んでいる場合)
家庭内不和(兄弟間の争いなど)
・不慮の出来事(事故や事件など)

…このように見ていくと、世の中に起きる不幸ほとんどが「祟り」になります。

ウグァンブスク(御願不足)によって、この不幸(祟り)が起きているならば、そのシラシ(お知らせ)に家族が気付かない限り、気付くまでだんだんと災難を大きくして「知らしめる」ことになり、これが恐れの理由です。

沖縄のトートーメー信仰の始まりとは

沖縄のトートーメー信仰の歴史
●沖縄のトートーメー信仰は、本州と中国からの風習がそれぞれに入ってきて、チャンプルーされたものではないか、と言われています

琉球貿易を軸に反映してきた沖縄では、琉球王国時代に日本と中国と深い交流がありました。
それぞれの文化をチャンプルーして、独自の御願文化を築き上げてきた歴史があります。

<沖縄のトートーメーとは:始まり>
[1]久米三十六姓(閩人三十六姓)
[2]臨済宗

このような流れが、先祖代々の氏名が記載される沖縄のトートーメーは中国的でありながら、祀り方は日本的な文化を感じる所以です。

[1]久米三十六姓(閩人三十六姓)

●職能集団「久米三十六姓(閩人三十六姓)」により広まったとの説があります

中国では明朝の時代、中国福建省から沖縄に移住して久米村(クニンダ)を形成した職能集団「久米三十六姓(閩人三十六姓)」がいました。

久米三十六姓(閩人三十六姓)」は造船などの技術者の集まりで、沖縄の文化とは深い関わりがあります。
そのため、中国福建省へ行くと、沖縄の亀甲墓と非常に似たお墓を見つけることも多いです。

[2]臨済宗

●本州から臨済宗を通して伝わったとする説もあります

独自の御願文化を持つ沖縄では個人墓地にお墓を建てていたこともあり、檀家制度はありません。けれども禅宗の一派である臨済宗の寺院は多く、葬儀などで単発的に読経供養を依頼する家も多いです。

最後に

以上が沖縄のトートーメー信仰とその歴史や仕組み、現代の暮らしと合わない問題点などです。

単純にタブーのみを聞くと、現代の暮らしにあまりに合わずに避けてしまいがちですが、古くから沖縄に根付くトートーメー信仰の意味や仕組み、その歴史を深く知ると、形を変えても残していきたい文化でもあります。

実際に某街頭アンケートによると、20代30代の7割が沖縄でトートーメーを残すべきとの考えを示しました。

ただし昔のように大きなお仏壇を入れるスペースはないし、長男であろうが次男であろうが、ましてや女性であっても問題はない、とする意見が多い傾向です。

また、沖縄のトートーメータブー(7歳以下の子どもを祀れない/独身女性を祀れないなど)に否定的な意見や、そもそも知らない・関係ないなどの意見も出ています。

ただここで、大きく変化しながら沖縄のトートーメー信仰を後世に残していくためには、その源泉を理解していくことが重要です。

※現代の沖縄で聞く、トートーメーへの意識調査については下記に詳しいです。
沖縄でトートーメーは継承すべき?お世話をするのは男性・女性?現代沖縄で聞く意識調査

 

まとめ

沖縄のトートーメー信仰とは
●祖霊信仰のシンボル
・その家を守護するパーソナルな神様
・お仏壇の中心に祀られる
・家では代々、嫡男が継承してきた
・トートーメー…尊い君(あなた)
・七代後に個のないカミ(神)になる
・カミ(神)はウタナー(神棚)で祀られる

●タブーが恐れられる理由
・マブイ(魂)が現実を変える
・ウグァンブスク(御願不足)でシラシ(知らせ)が来る
・シラシ(知らせ)はだんだん強くなる

●トートーメー信仰の始まり説
・久米三十六姓
・臨済宗


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