家を守護する火の神様「ヒヌカン」は、旧暦12月24日に掃除をする風習があります。
今年の旧暦12月24日は2023年1月15日(日)、この日は旧正月に向け、ヤシチヌウグァン(屋敷の御願)と、ヒヌカンのお見送りでもある「上天の拝み」まで行う家が多いでしょう。
・ヒヌカンの掃除にタブーはあるの?
・ヒヌカンの灰を、掃除しても良い?
・いっぱいになったヒヌカンの灰はどう処分する?
今回は、ヒヌカンの掃除に関して多い質問の答えを、ヒヌカンの灰の役割や扱い方とともにお伝えします。
ヒヌカンの灰に神様が宿る
●ヒヌカンはウコール(香炉)の灰の底に宿り、灰にはその家の出来事が記載された帳簿があります
この点が、沖縄で「むやみにヒヌカンを掃除してはならない」と言われる所以ですが、ヒヌカンの灰の大切な意味を理解し、手順に沿ってヒヌカンの掃除を行えば問題はありません。
そして春彼岸と秋彼岸、旧暦年末にあたる旧暦12月24日の3つのタイミングで、昔は定期的にヒヌカンの灰まで掃除を行ってきました。
[1]ヒヌカンの依り代
[2]家の帳簿
例えばヒヌカンを仕立てる時、母や義母から継承するのであれば、実家や義実家のヒヌカンから灰をいただき、新居に設けたヒヌカンのウコール(香炉)にくべて、ヒヌカンの神様へ移っていただきます。
新しく仕立てる場合でも、ウガンジュ(拝所)で拝んだお線香を供えるでしょう。
そのため日ごろむやみにヒヌカンの灰を掃除したり、触ったりしない家も多くあります。
・【沖縄のヒヌカン】ヒヌカンの始め方。親から引き継ぐ、一から仕立てる2つの方法を解説
[1]ヒヌカンの依り代
●ヒヌカンのウコール(香炉)の灰には、神様が宿っています
ただ神様はウコール(香炉)の灰の底に宿っているとして、ヒヌカンの掃除を行う際には、ウコール(香炉)の底からティースプーン3杯ほどの灰を選り分け、残りを整えると良いでしょう。
[2]家の帳簿
●ヒヌカンのウコール(香炉)の灰に、神様がその家の出来事を「記帳」します
ヒヌカンが守護する家に住む家族、ひとりひとりの出来事を、日々ヒヌカンのウコール(香炉)の灰に記帳していますが、問題は良きことばかりではなく、悪しきことも記帳している点です。
ヒヌカンは旧正月にはウティン(御天)へ里帰りし、神様へ記帳された全てを報告するので、旧暦12月24日、ウティン(御天)へ里帰りする前に、ヒヌカンのウコール(香炉)を掃除します。
●ヒヌカンの役割
・ヒヌカンの灰には、家の全てが記帳される
・ヒヌカンは旧正月、ウティン(御天)へ全てを報告する●ヒヌカンの掃除の意味
・ヒヌカンの灰(記帳された事柄)を整理する
・良きことだけを報告いただけるよう、御願する
旧正月に向け、大掃除の一環としてヒヌカンも掃除をする意味もありますが、昔からの言い伝えでは、旧正月にウティン(御天)へ里帰りするヒヌカンが、家の悪しきことまで報告してしまわぬよう、帳簿を整理する役割も兼ねていました。
・【沖縄のヒヌカン】家の守護神ヒヌカンが持つ5つの役割。日々のお世話やタブー3つの知識
ヒヌカンの掃除にタブーはある?
●ヒヌカンの掃除をするには、①ヒヌカンに触れる人、②掃除前のご報告、③ヒヌカンの灰の扱い、3つのタブーがあります
ヒヌカンの灰には前述したように、守護する家のさまざまな出来事から、家に住む家族の戸籍情報まで、さまざまな情報が記帳されており、ヒヌカンご自身の依り代でもあります。
そのため、沖縄では昔からヒヌカンを掃除するにあたり、3つのタブーがありました。
[1]ヒヌカンを担う主婦のみが触れること
[2]ヒヌカンの掃除前には、理由を述べること
[3]ヒヌカンの灰は、全て捨てないこと
以上が3つのタブーです。
ヒヌカンの掃除では灰を処分しますが、ヒヌカンの神様や帳簿、戸籍などの情報まで処分しないよう、処分方法には手順があります。
(詳しくは後ほど解説しますので、少々お待ちください。)
[1]ヒヌカンを担う主婦のみが触れること
●ヒヌカンは主に台所に立つ家族がお世話を担い、その者以外は触れません
今でこそ専業主夫や夫婦共同で台所に立つ家庭が増えましたが、かつて台所に立つ家族と言えば、家の女性(母・妻)でしたよね。
●そのため、かつてヒヌカンは掃除をする際にも、男性が触れることをタブーとしました。
けれども現代では事情が違います。
「台所を主に担う家族」がヒヌカンのお世話をし、その他の家族は触れないようにすると良いでしょう。
[2]ヒヌカンの掃除前には、理由を述べること
●ヒヌカンを掃除する前には手を合わせ、掃除の理由を報告します
例えば、旧暦12月24日のヒヌカン掃除であれば「本日は旧暦12月24日、ヤシチヌウグァン(屋敷の御願)の日ですので、ヒヌカンを掃除しております」などと、自分の言葉でお伝えすると良いでしょう。
①お線香をサンブンウコー(三本御香)供える
②ヒヌカン掃除の理由をご報告する
ウコール(香炉)の灰は依り代であり、いわばヒヌカンの住まいです。
そのため何も報告せずに、いきなりヒヌカン掃除を進めることは失礼にあたります。
・【沖縄のヒヌカン】旧暦1日・15日ヒヌカンの拝み方☆お供え物やお線香の本数を解説!
[3]ヒヌカンの灰は、全て捨てないこと
●ヒヌカンの灰には神様が宿り、帳簿には貴重な情報が記載されていますので、これを残さなければなりません
前述したように、ヒヌカンの神様や帳簿などはウコール(香炉)の底にありますので、最初に香炉(ウコール)の底から灰を取り出し、別にすれば大丈夫です。
そして、ヒヌカンのウコール(香炉)を掃除した後は、最初に別にした灰を入れます。
ヒヌカンの灰を掃除する手順
●ヒヌカンの灰を底から取り出した後、残りの灰は茶こしなどで漉して綺麗にします
まず前項でお伝えしたように「今日は○○のため掃除をしますよ。」と沖縄ヒヌカンへご報告の拝みをしてから始めてください。
ヒヌカンを掃除するにあたり、必要な道具は①新聞紙と、専用にした②茶こしなどの漉し器、こちらも専用にした③ティースプーンなどの匙です。
●ヒヌカンの灰を掃除
(1)ティースプーンでウコール(香炉)の底から、灰を3杯取る
(2)取った灰は別に分けておく
(3)新聞紙を広げる
(4)新聞紙の上で、ウコール(香炉)の灰を漉す
※専用の茶こしなどを使用●ヒヌカンのウコール(香炉)のお清め
(5)潮水(塩水)を入れたボウルを用意する
(6)空になったウコール(香炉)を潮水(塩水)に浸ける
※2~3時間ほどが目安●ヒヌカンの灰を入れる
(7)ウコール(香炉)水洗い
(8)よく乾かす
(9)ウコール(香炉)に(2)の灰を入れる
(10)ウコール(香炉)に(4)の灰を適量入れる
※ウコール(香炉)の八分目ほどが目安
ここでウコール(香炉)に入りきらなかった残りの灰ですが、このなかにヒヌカンの神様や大切な家の情報が残っているかもしれません。
そこで灰を処分する前に、お線香を通してヒヌカンのウコール(香炉)へ移す儀礼を行います。
ヒヌカンの容器を清める
●ヒヌカンのウコール(香炉)や茶器などの仏具は、潮水・塩水に数時間浸けて清めます
沖縄でヒヌカンを掃除するのはウコール(香炉)ばかりではありません。
日ごろお供えをしている、ミジトゥ(水)・お塩・ウサク(お酒)や、チャーギなどの常緑樹を差す花活けも掃除をします。
コチラも神様への器ですので、海の潮水や塩水で穢れまで清めましょう。
塩水は茶さじ(耳かきほどの匙)3杯ほどを入れるとされてきました。
●塩水で浸ける
(1)ボウル(桶)の水に塩を混ぜる
・茶さじ(耳かきほどの匙)3杯
・もしくは海の潮水を小さじ3杯
(2)ウコール(香炉)や仏具を(1)に浸ける●水ですすぐ
(3)水で7回すすぐ
(4)よく乾かす
・キッチンタオルで拭く
●ヒヌカン台の掃除
(5)キッチンタオルに(1)の潮水を吹きかける
・若しくはキッチンタオルを(1)に少し浸けて絞る
(6)(5)のキッチンタオルで水拭き
(7)乾いた別のキッチンタオルで乾拭き
潮水で清めることが大切なので、ヒヌカン台の掃除ではキッチンタオルがなければ、キッチンペーパーなどでも問題はありません。
ヒヌカンのウコール(香炉)へ移す儀礼
●処分する灰に残されたヒヌカンの神様や家の情報には、お線香に移っていただき、お線香を通して綺麗になったウコール(香炉)へ移動していただきます
ここで用意するのは、①これから処分する新聞紙に残ったヒヌカンの灰をまとめる容器、②お線香をサンブンウコー(三本御香)、のみです。
※「サンブンウコー(三本御香)」とは、お線香3本分ですので、日本線香なら3本、ヒラウコー(平御香=沖縄線香)なら半ヒラ(半分)を用意します。
●ヒヌカンへご案内
(1)新聞紙に残った灰を器にまとめる
(2)まとめた灰にお線香を供える
・サンブンウコー(三本御香)
・火は灯す(3)ヒヌカンの神様へ移っていただくようご案内
●ヒヌカンの移し
(4)お線香を処分する灰から抜く
・左回りに3回、うずを巻くように抜く(5)綺麗になったウコール(香炉)に(4)を供える
・右回りに3回、うずを巻くように供える
沖縄ではヒヌカンをはじめとする神様は、左回り3回で抜き、右回り3回で入ると言われてきました。
ヒヌカンの神様へのご案内
では、ここで「ヒヌカンの神様へお線香へ移っていただくご案内」は、どのようにお伝えすれば良いでしょうか。
「ウートゥートゥー、ヒヌカンガナシー、
(あな尊い ヒヌカンの神様、)ウコール(香炉)の灰が多くなりましたので、ただいま分けております。
どうぞお線香へ移ってください。
本体までご案内いたしますので、お戻りください。」
このような内容を、沖縄言葉でも現代の言葉でも構いません。
最も心がこもりやすい言葉で伝えます。
ただヒヌカンの灰を掃除するためには、捨てる際にさらに行う儀礼があります。
ヒヌカンの灰を処分する儀礼
●ヒヌカンの灰は家の庭などに捨てますが、その前にお米やお塩を混ぜます
掃除をして新しくウコール(香炉)を作り神様を移動したため、器に残された灰には神様も情報も、もうありません。
ですからそのまま気軽に捨てれば良いのかもしれませんが、今まで家を守るために骨身になってくださった灰です。感謝の儀礼とともに捨てましょう。
(1)残された灰に、米粒少々とお塩を混ぜる
(2)感謝を伝え、合掌
(3)庭など家の周りに捨てる
マンションなどで難しい時には、ゴミ箱に捨てても構いません。
その場合、半紙などに一度包んで捨てるとされています。
また捨てる時には「今まで家のためにご尽力くださり、ありがとうございました。」と感謝を伝えると良いでしょう。
※庭に捨てる時には人が通らない場所を選んで捨ててください。
ヒヌカンへ掃除を終えたご報告
●最後に、綺麗になったヒヌカンを前にジュウゴフンウコー(十五本御香)を供え、無事に掃除を終えたことを報告して終わりです
ヒヌカンの容器を掃除し終えたら、改めてジュウゴフンウコー(十五本御香)を供えます。
・日本線香…15本、若しくは5本
・ヒラウコー(沖縄線香)…タヒラ半(2枚と半分)
ヒヌカンへのお掃除を終えた報告では、無事に終えたことへの感謝も伝えてください。
最後に
以上、今回はヒヌカン掃除の手順や儀礼、タブーを解説しました。
現代の沖縄ではヒヌカン用の白い器や台が販売されていますが、白い器なければならないなどの決まり事は、実はありません。
今も沖縄の家庭ではそれぞれ自由に、器を利用しているため、慣れ親しんだ地域にあるヒヌカンは色も豊かです。
そのため最近では手元供養などで扱われるコンパクトなミニ仏壇や仏具で、おしゃれに沖縄のヒヌカンを祀る家庭も増えました。
ただ一点、注意事項があるとすれば、沖縄ではヒヌカンへ供える器はヒヌカン専用であることです。家族が日常的に使っている器を共有をしないことのみ、注意をしてください。
・【沖縄の秋彼岸】お彼岸に行う屋敷の御願とは?六柱の神々と十ヶ所の拝み処
まとめ
ヒヌカンの掃除の仕方
●ヒヌカンの灰
・ヒヌカンの神様は灰に宿る
・灰には情報も記録されている●ヒヌカンの灰を掃除
・香炉の底から小さじ3杯の灰を取り出す
・残された灰は茶こしで漉す
・漉した灰を八分目ほどまで香炉に足す●ヒヌカンの灰を移す
・捨てる灰にお線香を差して案内する
・左に3回渦を巻きお線香を抜く
・右に3回渦を巻きお線香を供える●ヒヌカンの灰を捨てる
・捨てる灰には米粒と塩を混ぜる
・灰は庭に撒く●ヒヌカンの仏具を清める
・器は潮水(塩水)で穢れを取る